ミッション
- 持続可能な調達活動を通じ
社会価値を創造する -
私たちは、長期的に環境、社会、経済をよりよくしていくため、次に掲げる4項目をサプライチェーン全体に浸透させていくことで、持続可能な社会と価値創造の実現に向け、誠実に取り組みます。
- 1. 透明性
- 2. コンプライアンス
- 3. QCD(品質、コスト、供給)& イノベーション
- 4. 持続可能な調達活動
グローバルサステナブル調達ポリシー
ブリヂストングループの持続可能なサプライチェーンの実現に向けた活動は、ステークホルダーに環境面、社会面、経済面で長期的な利益をもたらします。この活動は、「グローバルサステナブル調達ポリシー(以下、調達ポリシー)」に基づいており、2050年を見据えた環境長期目標に掲げる「100%サステナブルマテリアル化※」に沿ったものです。調達ポリシーは適正な調達先選定要件の明確化やベストプラクティスの促進、また、業界内におけるコミュニケーション促進や業務改善のツールとしても活用されています。
当社グループが調達する天然ゴムのサプライチェーンや、人権及び環境への配慮を含む持続可能な調達に対するお客様や消費者の皆様の関心がますます高まる中、調達活動を通じた持続可能な社会と価値創造の実現というミッションは一層重要になります。
調達ポリシーの策定に当たっては、国連の「世界人権宣言」や「ビジネスと人権に関する指導原則」、国際労働機関(ILO)の各種条約、ISO26000(社会的責任に関する手引)とISO20400(持続可能な調達に関する手引)など、広く社会に認められている人権の国際規範及び基本原則に細心の注意を払いました。
本ポリシーでは、児童労働、強制労働、土地の権利、労働条件、公平で平等な処遇を事業における5つの重要な人権課題として定め、今後ステークホルダーとの対話を通じてこれらの課題の原因を特定していくことを約束しています。本ポリシーをもとに、長期的に環境、社会、経済をよりよくするためにも、お取引先様と協力して持続可能なサプライチェーンの早期実現に貢献していきます。
※ ブリヂストングループでは、「1.継続的に利用可能な資源から得られ、2.事業として長期的に成立し、3.原材料調達から廃棄に至るライフサイクル全体で環境・社会面への影響が小さい原材料」をサステナブルマテリアルと位置付けています。詳しくはこちらのページをご覧ください。
調達ポリシーの改訂
当社グループは、外的環境の変化、社会やステークホルダーからの期待や要請を踏まえ、調達ポリシーを改訂しています。
第3版(2024年1月改訂)では、サプライチェーン全体に調達ポリシーを周知することを目的として、Tier1のお取引先様に対し、本ポリシーの適用範囲を自身のサプライヤーにも拡張し、内容を共有していただくことを明記しています。さらに、環境・人権問題などの社会的要求事項にも対応できるよう、本ポリシーの内容を拡充しました。
当社グループは、お取引先様が調達ポリシーを十分にご理解の上、ご対応いただくようご協力をお願いしています。また、持続可能な調達活動を推進し、社会の要請に応えていく中で、継続的な改善を図り、将来的にお取引先様とより良いビジネスパートナーシップを構築することを目指しています。
ポリシー策定・改訂のプロセス
焦点を当てている項目
調達ポリシーは、下記の4項目に焦点を当てており、当社グループとお取引いただく際に必ず実施いただきたい事項と、持続可能なサプライチェーンの早期実現のために実施をお願いしたい事項とを定めています。
- 透明性 ― 調達に関わるトレーサビリティの向上と、優れたガバナンス体制の構築を含めて定めています。
- コンプライアンス ― 当社グループが事業を展開する国及び地域で適用される全ての法律と規制を遵守すべきことを定めています。
- QCD(品質、コスト、供給)&イノベーション ― 高品質の製品とサービスをタイムリーかつ適切な価格で供給するとともに、国際社会の発展に寄与する革新的なテクノロジーを追求すべきことを定めています。
- 持続可能な調達活動 ― 環境関連法令の遵守などの環境への責任ある調達活動、差別のない最低賃金の遵守や強制労働防止、結社の自由と団体交渉などの人権の尊重、安全で健全な働きやすい労働条件、水利用、土地の利用及び保全、防災、レジリエンス(変化に対処する能力)に関する事項に取り組むことを定めています。
推進体制
サステナブル調達ワーキンググループは、調達やサステナビリティ担当の経営層など、世界各地のブリヂストングループ従業員から組織横断的に構成され、調達ポリシーや関連施策を策定・展開する上で中心的な役割を果たしてきました。持続可能な調達活動の推進と施策実施面をさらに強化するため、2024年以降は、議論の場を「サステナブル調達ワーキンググループ」から戦略的事業ユニット(SBU)の調達責任者で構成される「グローバル調達コミッティ」へと移しており、関連するテーマについての議論は、テーマ別のタスクフォースにおいても実施されています。またグローバル調達コミッティは、グローバルで進める取り組みや活動の進捗状況を確認し、グローバル経営執行会議(Global EXCO※)に報告しています。
※ Global CEOを含むメンバーから成り、グループの事業戦略と執行を監督する最高位の会議体
「グローバルサステナブル調達ポリシー」の実行
調達ポリシーの導入以降、ブリヂストングループ全体で教育を実施し、中でも調達、法務、技術、顧客対応など数百におよぶ従業員の教育活動を積極的に行ってきました。
当社グループは、購買の量と頻度によってお取引先様を以下の3つのレベルに分類し、取り組みを推進しています。レベル1のお取引先様の多くは、タイヤ製品の原材料を取り扱うお取引先様で、主な原材料は天然ゴム、合成ゴム、スチールコード、ゴム薬品などです。国内外のおよそ1,000社のレベル1及び2のタイヤ原材料のお取引先様と共に、持続可能な調達に向けた活動を進めています。
- ※1「調達ポリシー」における「必ず実施いただきたい事項」及び「実施をお願いしたい事項」への対応状況。
- ※2原料や製品がどこから調達され、どのように生産され、誰が関わっているか、及び、これらの原料や製品の調達がサプライチェーンに関わる全ての人に与える影響を明確に知り、確認するための能力。
調達ポリシーの展開
当社グループのレベル1及び2の全てのお取引先様には調達ポリシーをご理解いただいたかどうかの確認と署名をお願いしています。2018年の初版においては、99%を超えるレベル1及び2のお取引先様に本ポリシーに賛同いただいたことを確認しています。2021年に改訂された第2版では、すべての主要なTier1※のお取引先様に改訂した調達ポリシーを受領したことを確認することを目標とし、2024年3月末時点では87%のタイヤ原材料のお取引先様から調達ポリシーの受領書をいただいています。
ブリヂストングループは数年にわたり、お取引先様に調達ポリシーなどの当社の活動を十分にご理解いただくため、事業活動を行う様々な地域で「調達方針説明会」を毎年開催してきました。説明会では、調達ポリシーで焦点を当てている、透明性、コンプライアンス、QCD &イノベーション、そして環境への配慮や人権の尊重といった持続可能な調達活動の4項目についてお取引先様にご説明しています。2023年は、主にグローバルと日本の事業における主要なお取引先様280社に日本での説明会にご参加いただきました。また、グローバルの年次「調達方針説明会」に、約380社のお取引先様を招待しました。
お取引先様への調達ポリシーの展開活動はサステナビリティに関する国際的な調査・評価機関であるEcoVadisにより、「持続可能な調達」分野で80点という評価を得ました(2023年時点、全体では69点)。
※ 当社グループと直接取引するタイヤ原材料の一次サプライヤー
EcoVadisによるアセスメント
ブリヂストングループは、EcoVadisによるアセスメントを通じて、人権課題への取り組みをはじめ、お取引先様のサステナビリティへの取り組みを評価しています。同社のアセスメント結果をモニタリングし、定期的に社内に共有しています。調達ポリシーに基づき、当社グループはお取引先様と共に持続可能な調達活動と競争力の向上に取り組んでいます。
当社グループは、新規及び既存のレベル1、2のお取引先様に対して、EcoVadisによる、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関するアセスメントを実施しています。エネルギー消費、水、生物多様性、汚染、廃棄物、お客様の安全、労働安全、労働慣行、人権、汚職、贈収賄、不正行為、マネーロンダリング、持続可能な調達などに関するESG課題について、当社グループの調達ポリシーに照らして評価しています。
当社グループはEcoVadisのアセスメントに関して以下のような目標とKPIを設定しています。
-
1.Tier1のタイヤ原材料のお取引先様との取引金額ベースにして95%以上がEcoVadisのESGリスクアセスメントを受審。
(2024年3月末時点では97%が受審しています。) -
2.すべてのTier1の天然ゴムのお取引先様がEcoVadisのESGリスクアセスメントを受審。
(2024年3月末時点では94%が受審しています。)
2024年3月末時点で、74%のタイヤ原材料のお取引先様(レベル1、2)に、EcoVadisによるアセスメントを受けていただきました。そのうちの81%が、当社グループが定める持続可能な調達活動の基準である、総合平均45点以上のスコアを満たしています。
お取引先様の改善支援と監査
当社グループでは、前述の通り第三者機関の評価を用いて、お取引先様の環境・社会パフォーマンス・ガバナンスを数値化し、お取引先様に必要な解決策の助言や支援を行い、改善を促します。
調達ポリシーの内容とアセスメントの結果に基づき、お取引先様のESG活動の改善に向けた支援として、各地域において持続可能な調達のためのセミナーを実施しています。
天然ゴムの持続可能な調達
タイヤ・ゴム業界におけるグローバルリーディングカンパニーとして、当社グループは、世界的な天然ゴムの需要増加に連動して、各社の調達量が拡大することにより生じる環境、社会リスクなどにも取り組んでいます。
当社グループでは、バリューチェーン全体で持続可能性を具体化しながらも、特に天然ゴムの持続可能な調達に注力しています。その中において、特に調達ポリシーに記載されている、環境への取り組み、人権の尊重、公正な労働慣行の支援、そして透明性の向上に取り組んでいます。また、森林破壊の防止にも取り組んでおり、調達・生産活動を通じて、気候変動や野生生物の保全にとって極めて重要な原生林や高保護価値(HCV)、高炭素貯蓄(HCS)地域の保護・再生を進めています。
天然ゴムは再生可能な資源であり、世界で多くの人々の生計を支えています。天然ゴムのサプライチェーンは複雑に何階層にもわたっており、原料ディーラー、加工工場、ゴム製品製造業者や小規模農家などで構成されています。また、天然ゴムは様々な消費者向け製品の主要原料となっていますが、その7割はタイヤに使われています。天然ゴムの大半は東南アジアの小規模農家や大規模農園で栽培されており、栽培に600万人以上が携わっているとも言われています。
当社グループは、この天然ゴムサプライチェーンのトレーサビリティと透明性向上に向けた取り組みを積極的に推進しています。
当社グループは、揺るぎない姿勢で天然ゴムサプライチェーンにおけるトレーサビリティの継続的改善に取り組んでおり、2019年からお取引先様と緊密に連携し、特に小規模農家レベルを含むサプライチェーンマッピングの重要性に対する理解を深めることに注力しています。この取り組みにより2023年には、お取引先様の自己申告に基づき、小規模農家レベルを含めた天然ゴムサプライチェーンのトレーサビリティを34%確保し、目標の30%を上回る成果を得られました。
また、さらなる改善を図るために、トレーサビリティ手法の発展に取り組みました。従来のデータ収集方法の限界を認識した上で、当社グループは現在、デジタルツールをこの継続的改善プロセスに統合することに力を入れています。このデジタル化への移行は、トレーサビリティデータの精度と信頼性を高めることを目的としています。具体的には、トレーサビリティトランザクション、地理マッピング、衛星画像、クラウドリポジトリなどのテクノロジーを利用することで、当社グループのサプライチェーンをより包括的かつ正確に理解することを目指しています。
当社グループが天然ゴムの自社農園を持つリベリアでは、自社農園だけでなく小規模農家についても、環境指標や社会指標を活用して農園の状況の見える化に取り組んでおり、データの信頼性や透明性の確保に向けて、新しいデジタルツールの導入を進めています。
こうした活動は、持続可能性と透明性に対する当社の姿勢を反映しているだけでなく、EUの森林破壊防止規則(EU Deforestation Regulation)への準拠に向けた当社の取り組みとも合致するものです。
2021年 | 2022年 | 2023年 | |
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天然ゴムサプライチェーンにおいてトレーサビリティを確保している天然ゴムの割合 | 25% | 33% | 34% |
サプライチェーンにおけるデューディリジェンス
WWFとの協働
2020年、当社グループは、国際的な環境保全団体である公益財団法人世界自然保護基金(WWF)ジャパンとの協働を開始しました。これは当社のサプライチェーンが、とりわけ人権尊重や環境保全などについて調達ポリシーに準拠しているかどうかを確認するデューディリジェンスプロセスを検討し、開発するためのものです。本協働は、持続可能な天然ゴム生産の強化と小規模農家の生産能力向上の支援を目的としています。
また、2021年には社外のステークホルダーの皆様からのESGリスク管理の要求が高い天然ゴムのサプライチェーンに着目し、ESGのデューディリジェンス活動を推進しています。天然ゴムのサプライチェーンにおけるESGリスクを特定・評価するために、Verisk MaplecroftならびにEcoVadisと協働しています。さらに、Verisk MaplecroftとEcoVadisの第三者アセスメントの結果に基づき、対象となるお取引先様を選定し、WWFと連携して開発した自己評価アンケート、SAQ(Self-Assessment Questionnaire)を使ってESG現地監査を実施しています。SAQは、「持続可能な天然ゴムのためのプラットフォーム(GPSNR)」の基準に基づいています。
サステナブル調達ワーキンググループは2022年、WWFジャパンとの協働で、児童労働、強制労働、森林破壊などの業界特有のリスクを含め、GPSNRのポリシーフレームワークに沿ってサステナビリティに関するリスクを評価する、デューディリジェンスプロセスを確立しました。当社グループはこのプロセスに従ったESGデューディリジェンス活動を加速化しており、2023年末までに54のTier1天然ゴム加工工場でESG現地監査を実施しました。
2023年に実施したお取引先様向け現地ESG監査の結果、人権侵害や重大な環境影響は確認されませんでしたが、サプライチェーンや絶滅危惧種に関する現状把握の仕組みなどには改善の余地が見られました。こうしたことから、当社グループは引き続き支援を行い、天然ゴムサプライチェーン全体のリスクを低減するため、お取引先様と共にリスクを予防・緩和する計画を策定し、サステナビリティへの取り組みの実施状況をモニタリングしていきます。上記リスクアセスメントにおけるESGリスクについては、当社グループはGPSNRのポリシーフレームワークで言及されているリスクに焦点を当てています。天然ゴムのサプライチェーンで最も弱い立場にあるのは、経済的に不安定でサプライチェーン全体において他の関係者との力関係で不利な小規模農家です。当社グループでは、小規模農家の持続可能性のリスク状況をより正確に把握するために、SAQの最適化に取り組んでいます。
人権デューディリジェンスの詳細は「人権・労働慣行」のページをご覧ください。
生産性向上支援の強化
世界の天然ゴム需要が上昇傾向を辿っている中で、森林保護の観点から法規制などが進められており、生産量を増加するために農園を拡大することは難しくなっています。天然ゴムはタイヤ製造に用いる重要な再生可能材料ですが、収穫量が少なければ小規模農家が天然ゴムの栽培では生計を立てることができず、他の作物栽培に切り替わる可能性があります。そのため、天然ゴムの小規模農家の生産能力を強化し、収穫量と収入を上げ、小規模農家が森林破壊や他のESGリスクの原因にならないようにすることが、当社グループにとって重要な活動になります。
そこで、小規模農家の生産能力向上を目的とした支援を強化していくために、関連機能で構成した「キャパシティビルディングタスクフォース」を2022年に設立しました。2023年には、小規模農家向けに研修と技術サポートを行い、5,640の農家を支援しています。また、タスクフォースでの議論を踏まえて、2026年までに12,000軒の小規模農家支援を行うことをグローバル戦略の中期目標として設定し、森林保全に向けて支援活動を強化しています。この目標は、GPSNRの基準にも沿った内容となっています。
世界の多くの天然ゴムは、南米と東南アジアの熱帯雨林に生育するHevea brasiliensis(パラゴムノキ)から採取されています。森林の破壊リスクを回避するため、当社グループはパラゴムノキの苗木を小規模農家の方々へ配布するとともに自社農園向けに開発した生産性向上技術の研修も行っています。当社グループは2005年から、インドネシアとリベリアで計500万本以上の苗木を小規模農家へ配布し、世界では総額約2億3,540万円※に相当する苗木を寄付しています。さらに当社グループではゲノムデータを利用して育種技術や栽培方法を改良し、パラゴムノキの病害耐性や生産性の向上に貢献しています。
※ 1ドル=110円で換算
WWFとの協働による小規模農家支援
当社グループは、WWFジャパンおよびWWFインドネシアとのパートナーシップを通じて、インドネシアのリアウ州とジャンビ州で天然ゴムを栽培する小規模農家に対して、中期的な観点で収量向上に向けた技術研修の支援を始めています。自社の天然ゴム農園で培った技術を活用し、整地や育苗からカップランプとしての天然ゴムラテックス凝固物の回収までの一連の技術研修を2024年に実施して予定です。2024年第1四半期には、リアウ州の農民組合Kuantan Singingi Rubber Farmers Association(APKARKUSI)に加入する小規模農家10名と、ジャンビ州の小規模農家5名に対し、ラテックスを採取するタッピング技術、施肥、枝打ち、病害対策について研修を行いました。今後は、活動のインパクトをさらに拡大するために、この15名を指導者として育成するとともに、多様な農地状況に応じた収量向上技術を標準化することで、より多くの小規模農家に技術を普及する仕組みを構築していきます。
私たちの組合に所属する農家のほとんどは慣行農法を行っており、若木の手入れ、ラテックス採取、カップランプの凝固と採取、病害対策といった天然ゴムを生産するための適切な技術を学ぶ機会はこれまでにありませんでした。
こうした技術習得研修の場を提供してくれたブリヂストンとWWFには本当に感謝しています。
研修を受講すれば、天然ゴム生産の農業生産工程管理(GAP)について学ぶことができます。
天然ゴム生産の存続・発展に向けて、今後も包括的なフォローアップ研修が定期的に実施される予定で、最終的にはゴム農家の収入と暮らしの向上、そしてクアンタンシンギンギ県における持続可能な天然ゴム生産の拡大につながることを期待しています。
インドネシアの内製農園に赴任していた際の経験や、他の天然ゴム生産国から入手した農園技術を基に、各農家の状況に応じた生産性・品質向上の指導を開始しました。参加者の皆さんは非常に熱心に取り組んでおり、私たちも参加者の熱意に応えられるよう様々な工夫をしながら引き続き指導を行ってまいります。こうした指導の結果が更に拡大していくことを目指し、各農家の事情に応じた指導方法の標準化、仕組みづくりも計画しています。生産性向上による供給安定と、農家の方々の生活水準の向上の両立を目指し、引き続き鋭意取り組んでまいります。
GPSNRとの生産能力強化プロジェクト
GPSNRは多様なステークホルダーが参加する包括的なネットワークであり、天然ゴム業界の持続可能性の強化に向けて当社グループが他タイヤメーカー、自動車メーカー、加工・製造業者、小規模農家、市民社会と協働するうえで有効なプラットフォームとして機能しており、資源や知識を共有しながら非常に幅広く複雑な問題に取り組んでいます。
当社グループは、小規模農家の生産能力と持続可能性を強化するために、2023年にGPSNRが中心となって実施する取り組みの支援としてGPSNRに6万ドル(約790万円)を寄付しており、GPSNRから重要な支援企業として認められています。GPSNRでは、この寄付金を活用してアグロフォレストリーによる収入源の多様化のプロジェクトのとりまとめを推進しており、2023年から2024年5月の期間においてインドネシア、リベリア、コートジボワールでアグロフォレストリーのワークショップや研修を実施し、計99の小規模農家に支援を行っています。
当社グループはGPSNRの生産能力強化プロジェクトへの寄付に加え、有効な支援を実現するためにGPSNRの「小規模農家ワーキンググループ」に積極的に参加し、小規模農家の意見をGPSNRの活動に反映させるべく取り組んでいます。小規模農家の作付面積あたりの収穫量を増やすことで生産能力を強化するための支援を行うために、GPSNRの「責任共有フレームワーク」での議論に主体的に参加し、資源や知識を共有するための最も公平な資金分配メカニズムのあり方や、天然ゴムの持続可能性の向上に貢献したメンバーの取り組みの評価や表彰のあり方について協議を進めています。
トピック:Project Unnati(インド・ケララ州での持続可能な天然ゴムプロジェクト)
「Project Unnati」は、インド・ケララ州の2つの県(イドゥッキ県及びコッタヤム県)において、持続可能な天然ゴムサプライチェーン構築へ向けた当社グループの取り組みの一環として開始しており、2024年までに5,000の小規模ゴム農家の生産能力を高め、生計を向上させると共に、人権や環境に配慮したゴム栽培につながるように支援を行っています。
国際市民団体のSolidaridadによる支援のもと、上記2つの県でニーズを調査し、ゴムの品質、燻煙所やゴムシート作成の改善を実施しています。この支援は、ケララ州で実施されたニーズ調査の結果に基づいており、以下のような成果が期待されます。
a. ゴムシートの品質向上:ゴム農家が供給するゴムシートの総合的な品質が5~7%向上
b. 質の高いサービスへのアクセス改善:4つのゴム生産者協会(RPS)を通じて推進
c. 既存の燻煙所やゴムシート作成への10名の出資者発掘
2023年に取り組んだ主な活動は次のとおりです。
1.ゴム農家向けアプリ開発
ゴム農家に関連するデータの収集と、農業の生産工程管理に関するGood Agricultural Practice(GAP)および衛生管理に関するGood Hygiene Practice(GHP)についての情報共有を目的とするアプリを開発しました。このアプリは、2026年までに2万5,000のゴム農家に向けて農園の優良事例に関する知識を広める用途で活用されます。
2.実証用農地区画の設置
2023年に実証用農地を10区画設置し、まずはデモンストレーションを通して農家の知識と能力を育成し、行動を改善し収穫量を上げていくことを目指しています。実証という手段を使うことで、見たり聞いたりするだけの学習以上に人々の関心が高まります。
3.ゴム農家向け啓発プログラム
ゴム生産者協会(RPS)において、ゴム農家向けの意識啓発を図るプログラムを実施しました。
この意識啓発プログラムは、GAPの導入、品質向上、研修モジュールなどをテーマとするもので、37のRPSが対象となり、1,500以上の農家が参加しました。
トピック:Firestone Liberiaでのゴムの持続可能性プログラム(リベリア・マージビ郡とボン郡)
リベリアでの取り組みには、Firestone Liberiaの施設に近接するマージビ郡とボン郡から546の農家が参加し、持続可能な最良事例、データ取得による農場登録、品質仕様を満たす適切な作物の取り扱いなどに焦点を当てながら意見交換が行われました。
病害診断技術の開発
世界のゴム農園の9割以上が集中する東南アジアでは、パラゴムノキが根白腐病に感染してしまう被害が深刻化しています。特に対処が効果的である感染初期段階における診断技術の確立が課題となっていますが、当社グループではドローンや人工知能(AI)を利用した早期診断の技術を開発しました。
詳しくは「貢献の最大化」をご覧ください。
自社農園における地域貢献
当社グループが自社農園を運営するにあたり、自然と共生し、地域の農園や小規模農家と共存することが不可欠だと考えています。
当社グループの自社農園では、安全かつ清潔な水や無償の医療サービスを提供し、また幼稚園から高校まで23の学校を運営し、250名以上の教職員が従事しています。そして照明や電力を持続的に供給できるように、39の地域に再生可能エネルギーも導入しています。
特に東南アジアでは、小規模農家向けの播種成功率向上ワークショップを主催して、自社農園で開発した生産性向上のための技術支援をしており、毎年、数百の小規模農家が高品質のパラゴムノキの栽培や移植、病害の防除や最適な採取方法のワークショップに参加しています。
天然ゴムサプライチェーンのグリーバンスメカニズム
当社グループは、バリューチェーン全体で信頼できるパートナーと連携し、社会に対する価値を共創することが不可欠であると考えています。 特に森林伐採、児童労働や強制労働のリスクにさらされる懸念のある天然ゴム産業において、グリーバンスメカニズム(苦情受付・解決の仕組み)はバリューチェーン全体の持続可能性を高めるための有効な手段の一つになります。こうした仕組みにより、当社事業に関わるステークホルダーからの意見を集め、お取引先様との関係強化をはかれ、持続可能なサプライチェーンの構築を進める上での潜在的なリスクや機会についても把握できるようになります。当社は 2022 年に天然ゴムのサプライチェーンを対象としたグリーバンスメカニズムを構築しました。このグリーバンスメカニズムは、人権や環境の問題を取り扱い、通報者の秘密・匿名性を適宜確保しています。天然ゴムサプライチェーンに関わる当社グループ内外のすべてのステークホルダーが利用可能で、当社グループの調達ポリシーに基づき、お取引先様や第三者専門機関と問題解決を図るものです。また必要に応じ、GPSNRとも連携して対応します。当社グループはグリーバンスメカニズムの透明性を確保するため、以下リンクの当社ウェブサイトで標準作業手順書(SOP)、苦情受付窓口、苦情への対応状況を公開しています。
2023年には当社グループのお取引先様1社に対する苦情を受け付けました。国際NGOであるEarthwormの支援を受け、苦情の対象となったお取引先様に連絡し、第三者機関による調査結果、改善のための行動計画、現状を確認しました。 当社グループは対話に基づいて、2023年6月にグリーバンスリストを以下リンクのウェブサイトに公開し、四半期ごとに対応状況を更新しています。当社グループは、引き続き人権、環境の管理・実践の改善を監視していきます。適切かつ透明性の高い運営を行うことで、お取引先様に対してリスクの是正・軽減や被害者支援を促すことができ、人権リスクの低いサプライチェーンを構築することが、ひいては当社グループへの安定供給につながるものと考えています。
詳しくは「グリーバンスメカニズム(英語のみ)」をご覧ください。
持続可能な天然ゴムのためのプラットフォーム(GPSNR)
当社グループは、サステナビリティの取り組みを着実に進めていますが、さらなる向上のためには業界全体の協力が不可欠だと考えています。当社グループは、同業他社と共にGPSNRを始動させました。GPSNRを通じて、人権尊重の促進、土地収奪や森林破壊の回避、生物多様性や水資源の保全、天然ゴムの収量の向上、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ向上のための基準づくりを進めています。
天然ゴムの持続可能な調達の強化に向け、影響力があり広範囲におよぶ貢献をするために、当社グループは、GPSNRにおけるすべての主要な取り組みと議論への関与を深めています。例えば、2021年にGPSNRがポリシーフレームワークを承認したことを受け、当社グループはGPSNRのメンバー企業がポリシーフレームワークの実施の進捗を報告するための報告要求事項の策定に携わり、中心的役割を担いました。2022年6月のGPSNRの総会で、上記の報告要求事項、メンバーによるポリシーフレームワークの実行を支援する「実施ガイドライン」、天然ゴムの持続可能性を強化する責任をサプライチェーンの全関係者が適切に共有できる、バランスの取れた構造を構築することを目指した「責任共有フレームワーク」が承認されました。2022年後半から2023年にかけて、当社グループはGPSNRメンバーが自らの持続可能性レベルを情報開示する際に役立つ、業界全体の保証制度の構築を目指す議論を主導しました。
2022年、当社グループはGPSNRのエクゼクティブコミッティのメンバーに再選されており、任期は2024年後半まで継続予定です。
当社グループは、引き続きGPSNRのメンバーや、NGO、天然ゴムサプライヤー、お客様などの様々なステークホルダーと共に、天然ゴムのサプライチェーンの透明性とトレーサビリティ向上に向けた取り組みを積極的に推進していきます。
EU森林破壊防止規則への対応
当社グループは、EUの森林破壊防止規則(EUDR:EU Deforestation Regulation)の要件に適時かつ迅速に対応するための体制をグループ全体で整えており、対応準備を進めています。また、GPSNRや欧州タイヤ・ゴム製造協会(ETRMA:European Tyre & Rubber Manufacturers’ Association)などの業界団体と積極的に連携して、規制内容に対する業界共通の見解を取りまとめるとともに、生産を支える小規模農家を支援しています。
紛争鉱物のリスク管理
当社グループの調達ポリシーは、コンゴ民主共和国及びその周辺の紛争地域で採掘されている紛争鉱物(すず、タングステン、タンタル、金)も含めた、全ての原材料を対象としています。当社グループは、400を超える世界の企業や組織が参加する「責任ある鉱物イニシアチブ(RMI)」が作成する報告テンプレートを用いて、サプライチェーン全体のリスク評価を行っています。紛争鉱物を含む可能性のある製品のお取引先様には毎年、この報告テンプレートの記入と当社へのご提出をお願いしています。
併せて当社グループは、タイヤ製品の原材料を調達する製錬業者を全て特定できており、いずれの業者も、RMIによる「責任ある鉱物保証プロセス(RMAP)」を遵守しています。製錬業者が関連するRMAPに準拠していないことが疑われる、または確認された場合、サプライヤーは別の調達先、又は代替鉱物を見つけ出し、行動を起こすよう最善を尽くす必要があります。