多くのライダーから絶大なる支持を得て、絶賛された「S22」の性能を凌ぐ新製品が登場しました。
その名も「BATTLAX HYPERSPORT S23」。
2024年2月新発売の「S23」は、すべての領域において前身である「S22」を凌駕、圧倒的な進化を遂げたタイヤだといえます。すでに発売前のメディア向け試乗会でも国内・海外の媒体社から高い評価をいただき、参加した皆さんからは「S22を超えた」というコメントが多く聞かれました。
とくに「S23」は、エッジグリップの進化に妥協を許さない、そのコーナーを攻める楽しさと安定感を大幅に向上しています。
まさに「曲がる喜び」を「すべてのライダー」へ実感していただけるタイヤが完成しました。
この記事では、「S23」の紹介とともに、開発責任者の原田陽一(MCタイヤ設計)のインタビューをお届けします。
「次のコーナーが待ちきれない」
全方位に徹底進化したその性能とは?
①新開発のコンパウンドを採用!
「S23」は、フロントタイヤのショルダー部とリアタイヤのエッジ部に対し、新開発のコンパウンド搭載しました。
新グリップ向上剤の配合により路面をしっかりと捉えるカーボンでポリマーを補強することで、路面を確実に捉える力をさらに発揮、
圧倒的なエッジグリップで、コーナリング性能を最大限に発揮することで、コーナーを攻める楽しさと安定感を追求しています。
②新開発のパタンデザイン&剛性の最適化
「S23」は、リアタイヤにパルスグルーブを含む新パタンデザインを採用し、 ウェット路面での安全性能を向上しています。
>ウエット走行の常識が変わる!
二輪車用タイヤで世界初搭載の技術「パルスグルーブ」とは
ショルダー部の溝比率、パタン剛性を最適化しており、フロントはドライハンドリングと安定性、およびウェットでのグリップ感を向上させ、リアはトラクション向上を実現しています。
③「ULTIMAT EYE™️」で、微細な領域をトコトン追求
ブリヂストン独自の開発技術「ULTIMAT EYE™️」でタイヤが路面が滑る挙動を把し、接地後方における滑り域を低減。グリップ、トラクションをともに向上し、ワンランク上の走りを実現。
>ブリヂストン独自のタイヤ開発技術「ULTIMAT EYE™(アルティメット アイ)」
④ドライ性能の向上
スペインのアンダルシアサーキットで「S23」と「S22」の比較テストを行いました。
ドライコンディションにおいて「S23」は「S22」に比べ、コーナリングスピードで5%向上、ラップタイムで 1%の向上を確認できました。
⑤ウェット性能の向上
「S23」は、ウェットトラクション性能とハンドリング性能を向上させました。
ブリヂストン社のテストコースにて、ウェットコンディションにおける「S23」と「S22」の比較テストを行い、「S23」は「S22」に比べ、ブレーキ制動距離は3%短縮、ラップタイムは4%向上していることが確認されました。
⑥全方位型の進化
「S23」は、「S22」の高い性能をさらに向上させるために、妥協することなく、すべてのパフォーマンスを向上させました。
強力なエッジグリップにより、一段上のスポーツライディングを提供し、ウェット路面での安全性能(グリップ、ハンドリングの向上、制動距離の短縮など)も向上、さらに摩耗ライフも8%向上させました。
ブリヂストンの考える「ハイパースポーツタイヤの新基準」を切り開く新たな体験を、すべてのライダーに提供したいと考えています。
開発者インタビュー
『妥協せずにすべての性能を上げた』
S23の進化について、開発責任者である原田陽一(MCタイヤ設計)に話を聞いてみました。
あのS22を超えられるか?と言うプレッシャー
ーーー「迷ったらS22を履けば間違いない」と言われるほど多くのライダーに信頼されている「S22」。発売から5年が経ちますがその評価は高まるばかりです。その「S22」の後継商品を任された原田さんは、最初にその話を聞いた時はどのように感じたのでしょうか。
原田: 「S22」は高い評価を受けており、ブリヂストンの基幹商品となっていますので"あの「S22」を超えられるのか?"と非常に強いプレッシャーを感じました。ですが他方で"だからこそやりがいがある""やってやるぞ"と言う気合いが入りました。
ーーーでは最初から「S23」を「全方位的に性能を向上させる」と決まっていたのでしょうか。
原田:いえ、最初は「S22」の悪いところを探したのですが見つからず、方向性を探っている時にヨーロッパの市場から"「S22」はエッジグリップがもっと高ければ良いのに"と言う声を聞き、エッジグリップをキャラクターに据えてみようか、と考え始めました。
ーーーエッジグリップをさらに強化させるという方向ですね?
原田:ですが、エッジグリップだけ立たせてしまうと「RS11」の方向性に偏ってしまうのでそれは違う。「S22」の後継だからスポーティかつオールマイティに走れるタイヤ、一般公道で操る楽しさや安心感を持って走れるキャラクターを念頭に置いて開発しました。
「RS11」とはBATTLAXシリーズにおける一般公道走行のフラッグシップ商品。サーキット走行で抜群のコーナリング性能を発揮して高い剛性を誇るハイグリップタイヤです。
> BATTLAX RACING STREET RS11
「エッジグリップ」はフルバンクした際にタイヤのショルダー部で路面を掴む"踏ん張り感"をライダーに与えます。速い速度や深いバンク角でコーナーに侵入しても安心感を持ってコーナーを駆け抜け、出口でアクセルを開けることを可能にします。
そのエッジグリップばかり際立つのは違う、と原田は考えました。
「RS11」と「T32」の良いとこ取り?
ーーーサーキット走行で威力を発揮する「RS11」、ツーリングで楽しく安全に走れる「T32」、この2つの商品の良いとこ取りしたのが「S23」とおっしゃっていました。これはどういうことなのでしょうか?
原田:アイテムとして"パタンデザイン"を取り入れることを意識しました。「T32」の"パルスグルーブ"。これは私自身のアイデンティティとの自負もありますので取り入れました。
パルスグルーブとはT32で採用された排水性能を高めるパタンデザインです。
パタンの溝の中を流れる水の流れは中央に集中してそこを中心とした三角形のような形状となります。すると三角形の頂点と両サイドでは排出する水流の速度にバラつきが出てしまい、排水効率が良いとは言えないのです。
パルスグルーブは、インゲン豆のような形状をしており、膨らんだ部分に"ディフレクター"と呼ばれる小島を設置しました。水がディフレクターにぶつかることで水流の先端が平らになり水流の勢いが均一化されます。これにより水の流れる速度が上がり排水性能が向上するのです。
このパルスグルーブを二輪用タイヤで初めて採用したのが原田です。
>ウエット走行の常識が変わる!
二輪車用タイヤで世界初搭載の技術「パルスグルーブ」とは
原田:さらに「RS11」の矢印のような斜めのラインを取り入れています。タイヤの入力に沿った溝を配置することでトレッド剛性を高めています。
デザイン面で「RS11」と「T32」を繋ぐことを意識し、性能面では使われる部分をしっかりと良くしようと考えました。サーキットで使う部分はバイクを寝かしたところのグリップ、つまりエッジグリップを上げることを狙いました。その部分は「RS11」に寄せています。
他方、スポーツタイヤはツーリングや一般公道がメインとなりますのでバンク角の浅いところは安心感や安定感、フィーリングの良さを高めました。その部分は「T32」に寄せています。この2つの商品の良いところを併せ持つことを目指しました。
エッジグリップを上げただけではダメ?
ーーー「S23」は強力な「エッジグリップ」が最大の特徴です。しかし原田さんはエッジグリップを上げただけではダメだといいます。なぜでしょうか?
原田:バイクがまっすぐ走っているときはエッジ部分は接地していないので機能していないように感じるかもしれませんが、まっすぐ走っている時はショルダーの部材として機能しています。そこでエッジグリップを上げるためだけにその部分を変えると他の箇所に影響が出てしまいます。
そこで設計として一番頑張ったのはパタンザインでした。コンパウンドは局所的な効果を上げますが、そこだけに傾注すると全体のバランスが崩れる。「S23」のキャラクターであるオールラウンダーとして機能させるには全体のバランスを守り、より良くするためのパタンデザインが必要だったのです。
BATTLAXのタイヤ開発においては、コンピューター解析や「ULTIMAT EYE™(アルティメット アイ)」を使って最適なデザインを考えますが、最終的にはグルービングという手彫りでパタンデザインの検証を行います。
パタンの溝をほんの1mmでも、長くする・短くする・深くするだけでハンドリングや操縦安定性に大きなちがいが出ます。
構造と形状も変えて何万通りと言う中から最適と思われるデザインを見つけて実際にグルービングしてテストをする、何回にも渡るトライアンドエラーの繰り返しだったといいます。
原田:パタンデザインの目的は入力によりタイヤのたわませ方をコントロールすることです。だからパタンデザインは大切、パタンの入れ方を少し変えただけでハンドリングや操縦安定性、キャラクターまで変わってきます。
エッジグリップを上げるために新コンパウンドを投入した時のバランスが最適だったのが現状のパタンデザインでした。
「S22」のエッジ部分は溝が周方向に立っていますが「S23」は角度が寝ています。寝かすことで横力・トラクションに対してしっかり力が出るようにしています。エッジ部分のコンパウンドが最も機能するように考えました。
EWCの思想が取り入れられている
ーーーレーダーチャートで特別に上がっているのがエッジグリップ 。それはコンパウンドによる影響が大きいのですがそのコンパウンドはどうやってできたのでしょうか?
原田:EWCで培ったノウハウが活かされています。EWCはワイドレンジに対応できるタイヤでないと勝てません。ブリヂストンはEWCでワイドレンジでもきちんと機能すると言うことを学びました。その考え方が活かされています。
原田:ショルダー部に採用されている新開発コンパウンドも同じ思想で造られています。
路面に食い込みしっかり掴む効果を発揮するグリップ向上剤をバイク用タイヤで初めて採用しました。ですがグリップ向上剤だけだとフニャフニャになってしまい路面を掴む力が伝わらないのでカーボンを入れます。そのことによりゴムがより強くなります。それでしっかり路面に食い込みつつ、トラクションをかけた時に反力がしっかり出るようになってグリップが向上したと感じられるのです。
全方位的に性能を向上させる難しさ
「S23」は、スポーツ走行に必要なパフォーマンスをすべての領域で妥協することなく向上させた次世代スポーツタイヤです。
発表試乗会をサーキットで実施したこともあり「エッジグリップ」が全面に立ってきてハイグリップ系の「RS11」に近づいたのか、と思われがちですが「
それは違う」と原田は言います。
原田:冒頭に申し上げました通り「S23」はスポーツタイヤ:オールラウンダーです。だからさまざまな使われ方でしっかりと良いところが出るように開発しました。サーキットだったらエッジグリップ、ワインディングや一般道での使われ方だったら安心感・安定感・ウェット性能。
エッジグリップだけだったらわかりやすいのですが、ワインディングでどういう良さが出せるかが難しかったです。パタン剛性をしっかり使いやすく扱いやすくするためのパタンの入れ方をすごく考えました。
「S22」の良さは軽快なヒラヒラ感。対して「S23」は寝かせたところではしっかり踏ん張り感があって、ワインディングではしっかり感が重いと感じさせずに安心感に繋がる。"タイヤが曲げてくれる"と感じることができるタイヤだと思います。
S23のプロモーションビデオではTeam HRC開発ライダー長島哲太選手がサーキットとワインディングでインプレッションしています。その中で長島選手が「サーキットでは高い剛性感があるので安心してコーナーに進入できる。だから一般道では硬いかな、と若干の不安があったのですが走ってみて硬さは感じない、むしろ安心感がある。切り返しでの応答性が高くて"乗っていて楽しい"」とコメントしています。そこに繋がっています。
原田:RS11とT32の間に存在しているS22がどちらかに偏って大きくなるのではなく同心円的に大きくなったのがS23です。つまり、S22の全性能を上げたのがS23なのです。中でも"エッジグリップ"は大きく進化しました。だからと言ってRS11方向に振れているわけではありません。
"乗って楽しい"を味わってもらえるタイヤ。そこを目指しましたし、多くのお客様に感じて欲しいと思います。
合言葉は「曲がる喜びを、すべてのライダーへ」
ワインディングを楽しみ、時々サーキット走行をする、そんなスポーツライディングを楽しんでいる人にぜひ「S23」を体験して欲しいと思います。そこには「乗って楽しい」「バイクってこんなに楽しいんだ」と言う新しい発見があると思います。
原田陽一 プロフィール
2011年 株式会社ブリヂストン 入社
2018年 MCタイヤ開発部 異動
BATTLAX SPORT TOURING T32開発担当