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Project

PROJECT 01

月面探査車用タイヤ

未知なる環境「月」に挑む

~月面探査車用タイヤ開発~

Point 1

米国NASAは、月面探査プログラム「アルテミス計画」を発表。月での人類の持続的な活動を目指す計画で、日本を含め世界8カ国が参加を表明した。この一環として、宇宙航空研究開発機構(以降、JAXA)とトヨタ自動車株式会社(以降、トヨタ自動車)は月面の移動システムとして重要な役割を担う「有人与圧ローバ(愛称:Lunar Cruiser/ルナクルーザー)」の共同研究を進めており、ブリヂストンもタイヤ開発担当としてミッションを足元から支える。

※「Lunar Cruiser」は、トヨタ自動車の登録商標です。

Point 2

宇宙放射線や激しい寒暖差、微細な砂に覆われた地表、散乱する岩石など、過酷な使用環境に耐えうるタイヤを生み出すべく、スタッフは試行錯誤を重ねてコンセプトタイヤを試作し、検証を進めてきた。今後は、更にプロトタイプの試作検討を進め、さまざまな検討にステップアップしていく。

Point 3

有人与圧ローバの打ち上げは、2020年代後半に予定されている。 月資源探査が進んだ後は、月面にて人間の持続的な駐留を確立し、最終的には人類を火星に送ることを目指している。そのころには、輸送に限らず、建設なども含めた様々なシステムが必要になるため、このミッションに参加することで得られた技術やノウハウはさらなる飛躍の機会を迎えることになる。

Part 01

有人与圧ローバ開発を通じて
国際宇宙探査ミッションに参画

2019年4月、ブリヂストンは、JAXA、トヨタ自動車とともに「チームジャパン」として国際宇宙探査ミッションに参加することを表明する。このミッションは、月面に人類を送り込んでさまざまな探査を実施するだけでなく周回軌道上に有人拠点を組み立て、さらには月面拠点を建設して持続的な宇宙の探査活動を継続させるという壮大な計画だ。

計画初期段階の探査をはじめ、拠点建設などの活動展開を考えるうえでも、月面の移動手段確保は必要不可欠だ。そこで、チームジャパンが担うのが、宇宙服を着用せずに一定期間居住できる空間を確保しつつ、長距離走行できることなどを目指した「有人与圧ローバ」の開発研究である。その中で、ブリヂストンは、月面を走破するために車両を足元から支えるタイヤの開発を担当する。社内では、本プロジェクト専任の「次世代技術開発第2部 弾性接地開発課」が新設され、そのメンバーとしてアサインされたのが今回取材したS.K.だ。彼は、当時を振り返って次のように言う。

「有人与圧ローバの実現は、世界でも初となるチャレンジです。当初はワクワク感だけを持って異動してきました。ところが、月面の環境や過去の探査機の情報を集め、有人与圧ローバがミッションを遂行するために、どのようなタイヤが必要なのかを具体的に考える程に、挑戦する壁の高さに気付かされる日々でした。」

Part 02

次々と明らかになるシビアな条件に対峙
社外のサポートも仰ぎながら
コンセプトタイヤを製作

最初に開発メンバーが直面したのは、タイヤメーカーとして慣れ親しんできたゴムを使えないという事実だ。月面の温度はマイナス170℃からプラス120℃と、寒暖差が激しい。そのうえ宇宙放射線が降り注ぐため、ゴムや樹脂といった高分子材料は短期間で劣化してしまうのだ。また、有人与圧ローバには、クルーが宇宙服なしで過ごせる居住空間や、長距離走行できる機能を備えることになっている。当然、タイヤが支える車体は大きくなる。

「過去の惑星探査車とは比べ物にならない高性能なタイヤが必要となるため、ゼロからチームで考え直しました。素材には金属を採用することにしましたが、単に剛性や強度を高めれば済むわけではありません。月面は、レゴリスと呼ばれるとても細かな粒子が積もって砂地のようになっています。そこでタイヤが沈んで埋もれることなく走破するためには、タイヤとレゴリスの接地面積をできるだけ広く取れる、骨格全体が柔らかくたわむタイヤが必要となるわけです」

ゴムより硬い金属素材を採用しつつも、空気入りのゴムタイヤ以上に柔軟性を持たせるという相反する条件を両立させるには、もはや社内の知見だけではカバーできない。こう考えたプロジェクトメンバーは、素材メーカーや金属加工会社、優れた成形技術を有した町工場など、社外との共創関係も構築しながら検討を進めた。そして、あまたの知見と技術力を結集して作りあげたのが、月面タイヤのコンセプトモデルだ。素材はゴムの千倍以上の硬度を有した金属製。スプリング状のタイヤ骨格が柔らかくたわむだけでなく、その表面にも柔らかい金属フェルトを組み合わせることで、更に柔軟性を高めた。

Part 03

コンセプトタイヤ完成は単なるスタート地点
開発はここからが本番となる

コンセプトタイヤが形を成した時点で、周囲から見ると大幅に歩みが進んだように映るが、彼に言わせれば「ようやくスタート地点に立ったに過ぎない」となる。
「本プロジェクトでは、大まかに3つのフェーズを想定しています。第一が、探査ミッション自体や有人与圧ローバの仕様定義と、そのために必要となる各技術要素の実現性検討を行う段階。そして第二が、各種試験や検討を通じて機能改修を進めつつ、詳細設計段階に移行するためのデータを取得する段階。第三が、実際に月に打ち上げる製品を用いて、詳細設計に問題無いことを確認することで、必要な認定を受ける段階となります。さまざまな検討のたたき台となるコンセプトタイヤの試作を終え、これからが本番という感じです」
彼の担当業務には試作タイヤの評価も含まれるが、そこでも非常に大きな課題がある。それは、実使用環境にて実験できないことだ。

「ラボで月と同様の温度変化を再現して影響を調べる、砂地で走行させてみるなど、部分的に月と似た条件下で各種テストを実施していますが、高真空や宇宙放射線まで含めた月面環境を、有人与圧ローバのスケールで完全に再現することは現実的ではありません。そんななかで、今のところ、有人与圧ローバの打ち上げは2020年代後半に予定されていますから、限られた時間内で、論理的で的確なデータを取得し、タイヤの信頼性を担保していく必要があり、技術者として日々鍛えられています。」

今後チャレンジし続ける壁の高さを話題にしつつも、その様子はどこか楽しそうだ。
「難題に直面して『ああしてみよう』『こうしてみよう』と解決策に知恵を絞り、検証するプロセスが好きで、技術者としての醍醐味と思っています。これまでも先駆的なチャレンジを繰り返し、今や地球上のあらゆる路面を安心・安全に走れるタイヤを提供し、その中で様々なデータやノウハウを蓄積してきたブリヂストンなら、必ず結果を導き出せるはず。社内外のメンバーと力を合わせて優れた月面タイヤを創出したいですね」

Project Member

次世代技術開発第2部
2007年入社
エネルギー環境システム専攻修了
S.K.

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