【佐藤琢磨スペシャルトーク前編】インディカーにおけるタイヤの重要性
2017年10月28日(土) 東京ビッグサイトで開催された、東京モーターショーのブリヂストンブースで、レーシングドライバーの佐藤琢磨選手に、インディカー・シリーズについてお話を伺いました。
平均時速360km/hで行われる世界最速の周回レースで、最も大切な要素となるタイヤについて、実際にインディ500で優勝したときのタイヤを目の前に、佐藤選手が語ります。
佐藤琢磨(以下佐藤):こんにちは。よろしくお願いします。
司会:まずは、インディ500(インディアナポリス500マイルレース)優勝おめでとうございます。
佐藤:ありがとうございます。
司会:今期のインディカー・シリーズも終了しましたが、今年はオフシーズンもかなり忙しいんじゃないですか?
佐藤:いろんなイベントに呼ばれるので、アメリカと日本を行ったり来たりです。でも、どの会場でもインディ500のチャンピオンとして祝福してくれるので、忙しいけれどうれしいですね。
司会:今日は東京モーターショーのブリヂストンブースに来ていただきましたが、琢磨選手にとってインディ500に優勝するというのはどんな位置づけなんでしょうか?
佐藤:どんなレースでも、優勝すればうれしいし、特別なことです。でもまさかインディ500に勝てるとは思っていなかったから、本当にすごくうれしい。自分の中でとても重要な位置を占めています。
司会:技術があっても、運があっても、それだけじゃ勝てない特別なレースですよね。何年か前に、もう少しで手が届きそうということもあったじゃないですか。
佐藤:そう、最終ラップでね。ダリオ・フランキッティと優勝争いをして、あとコーナーを3つ回れば優勝ってこともありました。でも、あそこで結果的にうまくいかなかったことで、インディ500に勝つとはどういうことか理解でき、失敗から学ぶこともできました。あれから5年が経ち、今年すべての環境が整って、ようやく勝つことができたんだと思います。
司会:なるほど。インディ500を制して、人生は変わりましたか?
佐藤:変わりましたね。毎月のようにイベントがあって、来年のインディ500の決勝が始まるまでずっと、その年のチャンピオンとして称えられる。さらに、これから一生、インディ500のチャンピオンとして紹介されることになるわけです。今はアメリカでも日本でもいろいろなイベントに呼ばれますが、そのたびに祝福してもらえるっていうのは、インディ500だけが持つ特別な力だと思います。
司会:アメリカンドリームを手に入れた男という感じがしますね。インディ500というのは500マイル(約800km)を走りきるレースなんですけれども、平均速度はなんと360km/h。
佐藤:普通だったら、ストレートを300km/hオーバーで走るっていうだけでたいへんなスピードですよね。でも、1周の平均速度が360km/hっていうことは、コーナーリングも350km/hくらい、ストレートエンドでは380km/hを超えることもあります。そういう意味では、世界最速の周回コースのレースですね。
司会:そうなると、ドライバー、チーム、マシン、そしてタイヤ、すべての信頼性がなければ勝てないと思うのですが、そのなかでも、タイヤというのは大事な要素のひとつですよね。
佐藤:最も大切な要素ですね。
司会:インディカー・シリーズには、ブリヂストンがファイアストンブランドのタイヤを供給しているわけですが、今日はこのブースに琢磨選手がレースで使ったタイヤを展示しています。
佐藤:インディ500で優勝したときのものですね。
司会:タイヤの接地面っていうのは、こんなに激しく削られるものなんですね。
佐藤:タイヤと路面が接地したところはゴムが融け、ゴムがアスファルトを掴んで、グリップ力が上がるという仕組みです。レーシングタイヤっていうのは温度に対して非常に敏感なんですが、融けることでグリップ力が増すので、走った後は表面がただれたような感じになります。でも、このタイヤは、ピックアップと言ってコース上に落ちている摩耗したタイヤのカスを拾っているので表面がザラザラなんですが、コースを走って戻ってきたばかりのときは、ゴムが融けてもっとペトペトした印象ですね。
司会:市販車のタイヤとの大きな違いというのはどこなのですか?
佐藤:市販車の場合はいろんな環境に合わせなきゃならない。寒い日、暑い日もあれば、晴れの日、雨の日もある。そのため、オールマイティーにパフォーマンスを発揮しなければならないけど、このファイアストンのインディ500のタイヤというのは、スーパースピードウェイで350km/hのときに力を発揮するようにできています。レースのときには温度管理がとても重要で、前後左右の4つのタイヤをどのようにモニターするのか、そのセッティングもひとつの戦略なんですよね。
司会:じゃあ、琢磨選手もレースの時にはファイアストンの方とも打ち合わせをするんですか?
佐藤:はい、打ち合わせしますね。僕はタイヤの開発自体には関わっていないんですが、供給されたタイヤのパフォーマンスをどれだけうまく引き出すかっていうのは、エンジニアとチームとドライバーが一番大事にしなければならないところです。ニュータイヤを履いた直後っていうのはグリップ力が高いけれど、走っていくうちにどんどん性能が変化していく。それを食い止めるために、ドライビングやセッティングを工夫するんですね。インディ500は走行距離800kmのレース中に、タイヤ交換のため7回近くのピットストップをしますから、それだけタイヤっていうのは大事なんです。
司会:このタイヤを見るだけでも、レースの状況を垣間見られるような気がしますね。