佐藤琢磨選手トークショー (3) インディジャパン復活?

2017年1月14日に、東京オートサロン2017のブリヂストンブースで、レーシングドライバーの佐藤琢磨選手をお招きしてトークショーを開催しました。
今回はそのトークショーのご紹介第3弾です。(全3回)

⇒佐藤琢磨選手トークショー(1)はこちら
⇒佐藤琢磨選手トークショー(2)はこちら

佐藤琢磨(以下佐藤):インディ500は40万人も観客が来るんですよ。

ピストン西沢(以下西沢):それはもう人の波ですね。

佐藤:半端ないですね。人間の声がこんなにエネルギーになるんだって。スタート前とかね。

西沢:会場の中の、コースの見える観客席が40万人で、外にはもっといるんでしょ?

佐藤:そうですね。

西沢:外に、レースを見に来たのにチケット持ってなくて、バーベキューしている人が。

佐藤:ライブで無料放送をやっているので、それを駐車場で聞く。ビールを飲みながら聞くとかね。そういうファンも多いですね。

西沢:それが泊まりだったり。

佐藤:キャンプしてますね、みんな。1週間ぐらい。

西沢:インディ自体が1か月やるんですね。

佐藤:最近は短くなって2週間半になりました。10年前は1か月あったんですけど、今はだいたい10日間くらいのプラクティスと予選があって、1週間後に決勝ですね。

西沢: 10日間くらいプラクティスがあると、逆に楽しみっ?

佐藤:もう出勤しているイメージですね。同じ時間に家を出て、同じ時間に帰ってくる。

西沢:インディの近くに住んでいるんですか?

佐藤:はい、インディアナポリスに住んでいます。

西沢:そういう人多いですか?インディでは。

佐藤:そうですね。たぶんチームの8割がインディアナポリスベースですね。ドライバーによってもまちまちですが、インディ500の開催期間中は全員インディのホテルやモーターホームに泊まっていますね。

西沢:大きな町なんですか?

佐藤:インディアナポリス、そこそこ大きいと思います。

西沢:お客さんは世界中から来るんですか?

佐藤:世界中から、全米から、ヨーロッパからも来ます。

西沢:すごい経済効果ですね。

佐藤:そうですね。

西沢:日本も外貨稼ぐなら市街地レースだよ。

佐藤:それ呼んでもらいたいですよ。

西沢:「インディお台場」でしょ。

佐藤:インディジャパン復活で。

西沢:インディジャパンはね、次やるんだったら茂木のオーバルよりも、渋谷の公園通りだと思うね。パルコ前を150km/hで右折だよ。

佐藤:コンクリートホールとフェンスさえ作れば、あと何もしなくていいですから。そのまんま走りますから、僕ら。

西沢:ライトだね。安全管理というか、ノウハウもあるから。割とパッケージとしては簡単?

佐藤:そうですね。インディカーはオーバルが中心と思われるんですが、たとえば今年は17戦ありますが、実はオーバルは6戦しかない。むしろそれ以外のほうが多いわけです。残り6戦がロードコース、5戦がストリートコースです。ストリートはリアルに街を走るんです。さっき言った穴も空いているので、セオリー通りのラインじゃないところを走らざるを得ない時もあります。

西沢:市街地コースで、西麻布の交差点から、246、東名阪の高速下を通って、渋谷の山手線の手前を右折するのにトップスピード何km/hですか?

佐藤:何も障害物がなければ290km/hぐらいはでちゃうんじゃないですか。

西沢:290km/h!あそこから直角右折するとしたら何km/hですか?

佐藤:たぶん150km/hぐらい。

西沢:150km/hで右折ですよ!見たいなあ。下ってきて、109のところをUターンすると何km/hで回れます?

佐藤:109のところはちょっと鋭角ですよね。あそこは80km/hぐらいですね。

西沢:見たいなあ。インディ夢ありますね。

佐藤:楽しいですね。そういう意味ではバラエティに富んでいる。ストリートだ、オーバルだ、ロードコースだと。ずっとハイスピードのオーバルが続くとちょっと怖くなってくるので、久々にストリートいきたいなという風になりますね。ストリートをずっと走ってると、そろそろ350km/hくらいで走りたくなる、みたいな。

西沢:なるほど。昨日ラーメン食べたから今日はカレーだみたいな感じで気軽に言うね。でもそこにあるのは、やっぱりマシンとタイヤとレース仲間との安心感というか、連帯感ですかね。

佐藤:そうですね。

西沢:変なドライバーもいないでしょ。

佐藤:でも若いドライバーは速く走ることはできるけど、オーバルのしきたりというか、そういうのはね。僕らは暗黙の了解じゃないですが、お互いを本当にリスペクトしている。しっかりとラインを残してあげないと、レースどころか危なくて走れないんですよ。オーバルで、350km/hで、3ワイドとか4ワイドになったりするので。そこはしっかりとやってもらいたいわけです。F1以上に相手のことを思う、というのはあります。でもストリートなんかは結構激しいですよ。車も頑丈なので、ツーリングカーみたいにぶつかったりもします。

西沢:そうだよね。あのエアロパーツも行き過ぎると華奢でつまんないよね。1人で走ってるんじゃないもんね。

佐藤:そうなんですよ。だからサスペンションも、F1だとカーボン製で、自分の車重と、かかってくる応力に対しては絶対曲がらないという強さがあるんだけど、関係ない方向から押すとパキンと割れちゃったりします。インディの場合は、未だにスチールのサスペンションアームを使っているので、ちょっとくらいぶつかって、車がポーンと跳ねたって全然大丈夫。

西沢:なるほど。今ホンダとシボレーという2つのブランドがエンジン競争をしていて、タイヤはファイアストンのワンメイクで。車の差はそこそこあるんですか?エンジンによって、チームによって。

佐藤:エンジンの差はほとんどないです。むしろホンダは、ライバルメーカーに対してエンジンパワーというよりも燃費がいいですね。

西沢:そのいいところを使えれば、色々な劣っている部分も補える。

佐藤:そうですね。あとはエアロパッケージが違うので、空力効率のところを突かれちゃうと、ダウンフォースレベルによっては僕らのほうが良かったり、相手のほうが良かったりで、なかなか厳しい戦いになっています。

西沢:逆転もできれば負けることもあるという良いバランス。

佐藤:そうですね。

(写真は2016年のインディカー・シリーズの様子です。)

西沢:インディカーは、アメリカではどういう人に人気があるんですか?

佐藤:年齢層ですか?

西沢:年齢層というかファン層。昔からインディばっかり好きな人が多いですか?

佐藤:州やサーキットによって違います。ロードコース、つまり常設のサーキットに来るファンの皆さんはF1もすごくよく見ています。

西沢:ホイールという見方で見ているわけですか?

佐藤:そうです。それこそ、僕のイギリスのF3時代の写真を持ってくるファンも未だにいます。だけどオーバル、たとえばナスカーも走るようなテキサスのオーバルに行くと、全然わからないですね、車の細かいことは。見てる人の半分ぐらいはわかってない。だけど、300km/h以上でサイドバイサイドになるところは楽しい。

西沢:それはすごい。2003年から2004年くらいに、モンツァに行ったんです。コース脇で見ていて。グリッドで佐藤琢磨が7番ぐらいにいたかな。真ん中あたりにいて、「こんな遠くに日本人が戦いに来てるんだ」というのを見て、すごくびっくりした。世界中戦いに行ってる、そういう経験が普通の人にはないところ。

佐藤:そうですね、だから自分の国籍を意識する。競技の最中は気にしないです。だけど、レースが始まる前とか終わった後に日の丸が掲げられて「頑張って」って応援されるのはやっぱり嬉しいですよ。

西沢:日本から遠いところまで行って応援するからね。その人たちも頑張って応援してるから。

佐藤:逆に言うと日本という国を飛びだして、世界で戦うアスリートたちには僕もすごい刺激を受ける。本当に無条件で、「頑張れ!」ってなります。

西沢:なるほど。今年はアンドレッティですよ。もちろん優勝というのはあれですけど、どういうレース運びや、ドライバーとしてどんなレベルを目指したいですか?

佐藤:僕としては、一段高いレベルで常に戦いたいと思っています。車そのものを、今までは、たとえばテストもできないし、シミュレーションもある意味ちゃんとしたものを持ってなかったので、サーキットに持っていくまでの準備が半分くらいまでしか整わなかったんです。走らせてみて良い時はそのまま進めるけれど、良くない時はなかなか上がってこない。しかも2台体制だとAかBかどっちが良いかってことをやってみて、良い方を取ってもう一度AかBかです。ところがアンドレッティの場合は4台いるだけじゃなく、これまでの蓄積しているデータ、それからシミュレーションにかけるリソースの大きさが全然違う。

西沢:そこから積めるスピードが全然違う?

佐藤:そうですね、しかもAかBじゃなくてABCDの4つに分けてテストを組み合わせる。それからもう一回ABCDで振っていく。プラクティスを2、3回やると、ほんと99%ぐらいポンといっちゃう。

西沢:ドライバーとして楽しいですか?

佐藤:たぶんそのくらいの車に乗ると、車がドライバーに訴えてくる情報量、そしてその情報の正確さが全然違うんですよね。だからミスしなくなるんですよ。

西沢:速い車に乗ることはすごく重要なんですよ。やっぱり「こんなスピードで曲がれるんだ、ここは」って、改めて認識するんですよね。

佐藤:だから亜久里さんと一緒にF1をやることになった時、亜久里さんが、「今まではホンダのトップチームでお金持ちのチームだったけど、スーパーアグリで貧乏人チームに来ちゃったから」という話をよくするんです。確かに的を得ていて、フロントウィングが、マシン2台にスペアが1個しかないので絶対に壊せない。限界で走るんだけど、そのことが脳裏をよぎるわけです。「これ縁石を踏み外しちゃったら大変だ」と。それでちょっと戻るんですよ。そうはいってもコンペティションだから思い切りいく。だからたまにちょっと縁石半分ぐらい、はみ出しちゃうとかしょっちゅうだったんです。だけどその後、トロロッソでテストすることがあって、タイムももちろん良かったのですが、3日間 300ラップくらい走って、1回もタイヤがはみ出さなかった。それでもバルセロナの2日目の午前中は、ベッテルより速かったんです。それぐらいの高いレベルで走らせつつミスしない。なぜかというと、車がたくさん僕に語りかけてくれるわけです。縁石を踏み外す前に、「このままだったらリアがいっちゃうよ」というのを車が言ってくれる。だから、スロットルを数mm戻すだけで収まるんですね。車は常に前を向いている。横を向かないんですよ。だから高いレベルで走ることができて、そうすると余裕が生まれるから視野も広くなる、心拍数も下がる、本当に心技体ですべてがマッチしてくるんです。

西沢:雑にやっちゃいけない。モノを大事にする、一瞬一瞬に対して集中力を落とさない。貧乏って大事なんですね。スーパーアグリは大事だったんだ。

佐藤:そうですね。素晴らしい経験をさせていただき、それで今、アンドレッティオートスポーツに来て。このチームは戦略もうまいです。去年のインディ500、燃費走法と全開走法で、最終的には燃費走法が勝ったんですが、実はワンツーだったんですよ。二位にいたドライバーはずっと全力で走ったドライバー。どっちに転んでもアンドレッティが勝っていたというのは驚異的だと思います。

西沢:戦略もいい、資金もある、車のセットアップも色々とノウハウがある。

佐藤:そうですね。そうはいっても、去年僕らは3勝くらいしか勝てなかったので、ホンダグループ全体としては厳しい戦いではあるんですが。その中で持っているものを100に近付けられるという意味では、今年はすごく楽しみにしています。

西沢:いつも「佐藤琢磨 成績」って月曜日に検索して、「ああ残念」って。今年は「おっ」っというのを期待してますよ。

佐藤:応援してください。

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