世界保健機関(WHO)の発表によると、世界にはおよそ4億6千万人の聴覚障害者がいます。そのうち子どもは3,400万人で、多くが発展途上国に住んでいます。子どもの難聴の60%は予防可能にもかかわらず、発見が遅れたり治療を受けさせるお金がなかったりするために手遅れになっているのです。
補聴器がないと教育を受けられない子どもたち
発展途上国にはろう学校がなく、高価な補聴器を手に入れられない聴覚障害者たちは教育の機会も失い、なかなか仕事に就くことができません。
補聴器を手に入れたとしても、1週間に1ドルかかる電池代を捻出できない、小さな村で電池が手に入らないなどの理由で、補聴器は次第に使われなくなってしまうといいます。
この問題に立ち向かったのがグレース・オブライエンさんです。彼女は、非営利団体Ears for Yearsの代表として、太陽光で充電できる補聴器『Solar Ear』を子どもたちに届ける活動をしています。その数は、2016年4月で200人以上にのぼります。
14歳でEars for Yearsを設立
オブライエンさんが補聴器に関心を持ったのは、2011年。父親が脳腫瘍を発症し、聴覚障害者となったことがきっかけでした。
自分にもなにかできることはないかと考えた彼女は、幼いころから習っていた演劇の経験を活かし、サマーキャンプで聴覚障害者に演劇を教える機会を得ました。
サマーキャンプ参加者の多くは、補聴器や人工内耳を装着する子どもたち。プログラムを通じ、子どもの教育には補聴器が欠かせないこと実感したオブライエンさんは、補聴器を買うことができない子どもたちの力になることを決意します。
サマーキャンプが終わるとすぐにEars for Yearsを設立。子どもたちに補聴器を届け、教育の機会を広げるための活動をはじめました。わずか14歳のことです。
太陽光で充電できる世界初の補聴器Solar Ear
安価で手に入り、電池代の心配もいらない補聴器を探していたオブライエンさんは、Solar Earにたどり着きます。
Solar Earはカナダの社会起業家であるハワード・ワインスタイン氏によって、2003年に開発されました。Solar Earは補聴器本体が安価なだけではなく、太陽光で充電できる電池を使用した世界初のソーラー補聴器です。維持費がかからないことで、発展途上国の子どもたちが継続して使い、公立校へ入学できる道を切り開きました。
オブライエンさんがSolar Earを選んだ理由
Solar Earには大きく3つの特徴があります。
1つめは、長寿命の充電式電池を使用していること。一般的な補聴器の電池は7〜10日で交換が必要になりますが、Solar Earの電池は太陽光で充電しながら約3年間使用可能。しかも、1個わずか1ドルです。
この電池は市場に出回る補聴器の85%で使用できるため、Solar Ear以外の補聴器を使っている人も、この電池に切り替えることが可能。電池の廃棄量削減にもつながります。
2つめは、聴覚障害者によって製造されていること。Solar Earは途上国の聴覚障害者に教育を広げるため開発されるとともに、雇用の機会の創出にも繋がっています。
3つめは安価で提供していること。一般的な補聴器が1,000ドル程度のところ、Solar Earは電池とソーラー充電器がセットで100ドル。最も高い機種でも250ドルほどで購入できます。
クラウドファンディングで、子どもたちに音を届ける旅へ
Solar Earを見つけたオブライエンさんは、すぐに連絡を取りました。オブライエンさんの志に共感したSolar Ear側は、Solar Ear本体、ソーラー充電器、4個の充電式電池を100ドルで用意します。
このキットを調達するために、オブライエンさんはハンドメイドの革ブレスレットの販売や、寄付、クラウドファンディングなどを通し資金を募ります。ここで集まった4,370ドルを元手に、メキシコ、スリランカ、ハイチ、韓国、ニカラグアにSolar Earを届けました。
持続可能な補聴器がより良い人生を築くチャンスに
補聴器は、ブラジル、中国、メキシコ、ロシア、シンガポールなど世界各国で製造が始まっており、その製造工程には耳の聞こえない方々も参加しています。
オブライエンさんの願いは、耳が聞こえないハンデに立ち向かう方々が、未来を切り開くきっかけを作ること。
電池代の心配がいらない補聴器なら、途上国の子どもたちも使い続けられます。太陽光の力で動く持続可能なSolar Earが、より良い人生を築くチャンスをくれることでしょう。