ブリヂストン
MCタイヤ開発部長 設計第1ユニットリーダー兼務
青木 信治
'93年の入社以来、一貫してバイク用タイヤに携わる。
'97年からレースタイヤ部門に在籍し、世界最高峰レースのタイヤも担当した技術者。現在はMCタイヤ開発部長と標準装着タイヤ部門の設計リーダーを兼務。
川崎重工業
モーターサイクル&エンジンカンパニー
技術本部 第一設計部 第二課 基幹職
Ninja H2R/H2 開発リーダー
市 聡顕
長く二輪車用エンジン設計に携わり、H2R/H2 の開発リーダーに。既存の1.5 倍の出力を誇り、環境性能にも優れるスーパーチャージドエンジンの開発も担当した。
大排気量スポーツバイクの常識を一気に覆したニンジャH2R/H2。そのパフォーマンスを実現するためには、まずは車両を開発するための「テスト用タイヤ」が必要だった。「当時、H2Rの最高速度の情報だけを頂いて『とんでもないことになったな』というのが、正直な感想でした。ブリヂストンを選んでいただいた理由の一つにモトGPの技術があったからだとは思うのですが」と青木さん。じつは当時のモトGPの最高速度は340㎞/h+α。しかしカワサキからの提示は「350㎞/h以上」。ブリヂストンにとってもそれは未知の世界だったのだ。
「まず、試作車が超高速域で走れないと開発を始めることができません。そこでエンジンの最大パフォーマンスで走行テストできるタイヤをブリヂストンさんにお願いしたのです」とH2R/H2開発リーダーの市さん。それは既存のタイヤで、350㎞/h以上で走れるタイヤが存在しなかったからに他ならない。
「高速周回用のオーバルコースでテストするのですが、高速域になるとバンク区間で車体を傾けざるを得ない。するとタイヤがバンクの上に向かって滑り出す。こうなるとすごく発熱してしまいます」と開発ライダーの山下さん。
そこでブリヂストンが用意したのが「バンク用プロト」タイヤ。
「ブローチャンクというのですが、熱によってタイヤのトレッド部が壊れてしまう。そこで完全にバンク用のテストタイヤとして、モトGPタイヤと同じ工場で作りました。そしてカワサキさんの走行テストには毎回立会いさせていただいて、1周ごとに温度などをチェックしました。走行テストを行う上では非常に効率が悪いのですが、山下さんにお願いしてご協力頂きました」と青木さん。
こうして車両のベースを作り、H2Rのタイヤを選定。H2Rが履くのはスリックのレーシングバトラックスV01で、基本的には市販品と同じタイヤだが……
「V01はスーパースポーツバイク用に使われますが、300㎞/h以上のところを我々としてきちんと見ることができているのか、それを確認するために、モトGP用タイヤの試験条件で評価を行い、それを提示させていただきました」と青木さん。
そしてH2Rの開発に続いて、公道仕様のH2に着手。
ケイテック
実験部 製品評価課
フォアマン
Ninja H2R/H2 テストライダー
山下 繁
'89年の入社以来、開発ライダーを担当。社内チームTeam38のライダーとして鈴鹿8耐参戦でもお馴染み。NinjaH2Rによる最高速チャレンジでもライダーを務める。
スーパーチャージャーがタイヤづくりを変えた。
過給エンジンが、大排気量スポーツバイクのパワーと最高速を次のステージへ一気に引き上げ、そのパフォーマンスに応えられるタイヤが必要となった。
川崎重工業
モーターサイクル&エンジンカンパニー
技術本部 第一設計部 第二課 基幹職
Ninja H2R/H2 車体設計担当
石井 宏志
大馬力&超高速に対応するH2R/H2 独自のスチールトレリスフレームを手掛ける。タイヤやサスペンションのみならず、タンクやカウル、電装品まで広範囲に渡って担当。
ブリヂストンは、当時開発を進めていたRS10を提案した。「RS10の最初の印象は『柔らかいな』と感じたことでした。H2R/H2は安定性を高い領域に持っていこうと開発を進めていたので、タイヤも車体も、柔らかすぎても硬すぎてもダメなのです。だから石井にも車体が路面に対して敏感過ぎない“良い感じでしなる”フレームをお願いしていました。しかし、タイヤとフレームが両方とも柔らかいとバランスが取れないのです」と山下さんは言う。
H2R/H2の大きな特徴であるパイプのトレリスフレームを作り上げた石井さんに聞く。
「モーターサイクルに挙動が出るのは、タイヤの接地圧が乱れたり変な方向にスリップ角がつこうとしたりするときです。しかし車体に挙動が出てもタイヤの接地圧が安定していれば、全体としての挙動は穏やかになります。過給エンジンで猛烈に速度の出るH2R/H2では、そこがとくに重要。そこで適度なしなりのあるパイプフレームを採用しました。挙動が出ても気にせずに行ける車体にしないと300㎞/h以上出すバイクは作れない。そんな考えを、ブリヂストンの担当者の方といつも話していました」
こうしてH2の特性やハンドリングに合わせ、標準装着(OE)のRS10をチューニング。開発ライダーの山下さんは、とくにニュートラルな特性を求めた。「ゴムも構造も含め、市販のRS10とはかなり異なります。リヤはケース剛性を高めたり形状を変えたりして安定性を高め、フロントはどちらかというとストリート用に近い構造でニュートラルさを狙っています。本当にH2用スペシャルです」と青木さん。
――カワサキとブリヂストン、日本メーカー同士の密なるリレーションで作り上げたニンジャH2とRS10。その開発過程を振り返り、青木さんは語る。「本当に未知の領域への挑戦でした。じつはタイヤの技術って、車両メーカーさんの要望に応えるところで上がって行きます。H2R/H2で最高速度のレンジが一気に上がりましたが、そのおかげで我々のタイヤ技術も一段引き上げてもらえたと思います」
KAWASAKI Ninja H2
ガスタービンや航空宇宙技術、ロボットや風洞など川崎重工グループの技術を結集して開発。'14年ケルンショーでH2R、ミラノショーでH2を発表。
BATTLAX RACING STREET RS10
H2 標準装着(OE)のRS10は、300㎞/h 超の耐久性や安定性はもとより、トレリスフレームとのマッチングやニュートラルなハンドリングを目指してチューニングされる。
クローズドコース用のH2Rは最高出力310馬力、350㎞/hを超える最高速度を誇る。タイヤはスリックの「レーシングバトラックスV01」を履く。