ブリヂストンの月面探査車用タイヤ
極限の環境で安心安全を提供し、人類の夢を背負った宇宙探査を支える
ブリヂストンは、「タイヤは生命を乗せている」の大原則に沿って、2019年より月面探査車用タイヤの研究開発に取り組んでいます。世界の道を知り、地球のあらゆるモビリティの進化を支えてきたブリヂストンが、次のステージとして宇宙の道へ挑むことで、スペースモビリティの進化を足元から支えていきます。
モビリティの進化を支え続けるブリヂストンの技術イノベーションは、これまでモータースポーツなどの「極限」の環境において磨かれてきました。本プロジェクトを通じて、月面という人類が活動する新たな「極限」の環境に挑戦することで、モビリティの未来になくてはならない存在となることを目指していきます。
月面探査車用タイヤに求められる特長
月面という極限の環境下で月面探査車の安心安全を支えるために、現在ブリヂストンが開発している月面探査車用タイヤの性能や特長をご紹介します。
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第1世代
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第2世代
① 空気を使わずに支えるタイヤ
月面は高真空(ほとんど空気が無い状態)であるため、通常のゴム製のタイヤのように空気で荷重を支えることが困難な環境です。そのため月では非空気入りタイヤである必要があります。
② 激しい気温差や放射線に耐えられる金属製タイヤ
月面には地表を守る大気がないため、宇宙線と呼ばれる高エネルギー放射線に曝され、また温度も120℃から-170℃になると考えられています。そのため、ゴムや樹脂といった高分子材料は、月面環境では硬さが大きく変化してしまううえに劣化が早く使用が困難なため、金属を用いたタイヤを開発しています。
③ 砂地でも沈み込まずに走行できるタイヤ
月面はレゴリスと呼ばれる微細な砂で覆われており、走行時にタイヤが沈んで埋もれてしまう可能性があります。そのため接地面を大きく確保し、レゴリスに沈み込まずに走行できるタイヤを目指しています。
進化を続けるブリヂストンの月面探査車用タイヤ
<第1世代(コイルスプリング構造)>
砂漠で荷物を悠々と運ぶラクダのふっくらとした足裏から着想を得て、金属製の柔らかいフエルトをタイヤのトレッド部にあたる接地面に配置することで、きめ細かい砂(レゴリス)との間の摩擦力を高めより優れた走破性を実現する、当社独自の技術を採用しました。
<第2世代(AirFree®の技術を活用したスポーク構造)>
第1世代の上記技術を進化させつつ、これまでの研究開発を通じて分かってきた月面を走るモビリティに求められるより厳しい走破性と耐久性に対応するため、新たな骨格構造を適用しました。新構造では、空気充填が要らない次世代タイヤ「AirFree」で培ってきた技術を活かして新たに薄い金属製スポーク(※1)を採用し、トレッド部を回転方向に分割しています。これにより、岩や砂に覆われまた真空状態で激しい温度変化や放射線にさらされる極限の月面環境下においても、走破性と耐久性の高次元での両立を目指します。
また、リアルとデジタル技術の進化により金属製スポークの形状や厚みを構造シミュレーションで最適化し、しなやかに変形しながらも金属部材の局所的なひずみを最小化して疲労耐久性を高めつつ、分割したトレッド部により接地面積を大きくしてタイヤを沈み込みにくくすることで、走破性もさらに向上させています。
「AirFree」についてはこちらのWEBサイトでご紹介しています。
- ※1タイヤの接地面とホイールを繋ぎ、荷重を支えるとともに衝撃を吸収する機能を持つ部材
タイヤの試作、さらに実証試験へ
これまで培ってきたタイヤ開発の知見やシミュレーション技術を駆使し設計・試作したタイヤを、実際に月面で走らせることができるのかを評価するため、月面に近い環境で実証実験を行っています。例えば、月面のように広大な砂地で様々な起伏がある、鳥取砂丘の月面実証フィールド「ルナテラス」で走行試験を行い、タイヤの耐久性能や駆動力などのデータを積み上げています。
月面探査車用タイヤプロジェクトは、ブリヂストンが中期事業計画(2024-2026)で探索事業として位置付けている「AirFree」の活用を地球から宇宙・月面へ拡大した取り組みです。将来的には月面という「極限」の環境で磨く技術を、地球上で使うタイヤにも還元し、さらなる価値創造へ繫げていきます。
また、本プロジェクトを通じ、ブリヂストンの新たな「自ら極限へ挑戦する姿」をパートナーの方々へ示すことで、当社の取り組みに共感いただき、宇宙ビジネスのネットワーク拡大および国内外の様々なパートナーとの共創機会創出へ繋げます。