技術を通して、アスリートの飛躍にエールを。
2020年度の国内女子ゴルフツアーは、新型コロナウィルスの影響によって開催中止が続き、例年より3か月遅れて徹底した感染対策のもとで開幕戦が行われました。長い自粛期間を経て、久しぶりにフィールドに戻ってきた選手たちの胸の中には、なんとしても良いパフォーマンスをしたいという強い思いがあったはず。そこで自身5年ぶりとなる見事な復活優勝を果たしたのが渡邉彩香選手でした。この勝利は、渡邉選手の努力の成果であることはもちろん、新開発されたブリヂストンのボール「TOUR B X」と強力なタッグを組んで導かれた結果でもあります。渡邉選手が試合中に感じたボール性能に関する談話とボール開発者の声から、小さなゴルフボールに詰め込まれたブリヂストンの最新テクノロジーを紐解きます。
「絶対にあの木までは届かないだろうと思って打ったボールが、木の中段にキャリーで当たってしまった。相当、飛距離が伸びていると実感した瞬間でした」(試合初日、1番ホールでのティショット)
ゴルフは、使用するボールをプレーヤー自身が選べる数少ないスポーツです。それゆえにゴルファーはゴルフクラブの性能だけでなく、ボールの性能にも大いに気を配って使用モデルを選択しています。渡邉彩香選手がツアーを戦うために選んで使用しているのが、ブリヂストンの最新ボール「TOUR B X」です。
渡邉選手は、女子ツアーきっての飛ばし屋としても知られています。豪快なドライバーショットは、強い弾道で前へと飛ばせるボール性能によるところも大きいといえます。
「渡邉選手のようにヘッドスピードが速いゴルファーは、ボールのバックスピン量が多くなりやすく、最大限に飛ばすためにはできるだけバックスピン量が少なくなるボールの性能が望ましい。そのためにボールの開発では、ボールのコアの中心部が軟らかく、外側になるにつれて段々に硬くする内軟外硬という設計手法が用いられます。他社ではボールを多層構造にすることでこれを実現していますが、ブリヂストンではハイドロコアという独自技術により、一層のコアの中でボールの硬度をグラデーション化し、内軟外硬を実現しています。これにより低スピン化による飛距離増に加えて、他社のように多層にする必要がないので製造時の品質のばらつきも小さくできる長所があります。もちろん、新しい製品にもこのテクノロジーを取り入れていて、さらに進化させた大経ハイドロコアを採用しています。」(ブリヂストンスポーツ 技術開発部 清水拓市)
また、ゴルファーはボールに飛距離性能だけでなく、打感の良さを求めます。クラブヘッドとボールがインパクトする接触時間は1万分の5秒ほどですが、選手たちはその一瞬のフィーリングでボールがどのように飛ぶかを感じ取ります。ボール自体のフィーリングが良くない場合にはインパクトからのフィードバックを得づらくなり、自分がイメージしたとおりにボールを飛ばせなくなるのです。そのためとくにプロゴルファーは、打音や打感をボール選びの大切な要素として捉えています。
ブリヂストンでは「TOUR B X」の前身となる2016年モデルから、そういったフィーリング面にも注力したボール開発に取り組んでいました。
「2014〜2015年に発売していたボールは、契約選手からドライバーでの飛距離には満足できるものの、よりショットの操作性を高めるために、インパクトでもっとボールの芯が感じられる打感にしてほしいと要望されました。ボールに芯を感じるかどうかは、どうやら耳から入っている打音が大きく影響していることに気づき、そこで音響メーカーに協力してもらって打音を解析することにしたのです。その研究開発の結果、芯を感じる音がどのような音なのか周波数などの数値で分析できるようになり、それを基に開発したボールを選手に試してもらったところ、高い評価を得ることになりました。この音響解析の技術は、もちろん最新モデルのボールにも活かされています」(前出、水谷大地)
「ラフからの40ヤードほどのアプローチ。球が強く出てしまいそうな場面でしたが、ボールをゆっくり飛ばすことができて、自分のイメージどおりの球筋でピンに寄せることができました」(試合4日目、8番ホールでの第三打目)
ゴルファーがボールに求めるのは、飛距離性能や打感だけではありません。ドライバーショットではバックスピン量を抑えて飛ばしつつも、ピンを狙うアプローチショットではしっかりとスピンが掛かってボールを止められる性能が要求されるのです。つまり、ショットに応じて"飛んで止まる"という相反する性能がひとつのボールに求められます。
ブリヂストンでは従来からボール内部のハイドロコアと最外層の軟らかいウレタンカバーによって、これら相反する2つの性能を両立させてきました。しかし、選手たちからはさらなる要望があったそうです。
「短い距離のアプローチショットでスイングスピードを抑えても、思ったよりもボールが弾いてキャリーが出すぎてしまうため、厳しいコースコンディションでピンを攻めていけない場面がある、という声が国内外のトップ選手たちから寄せられていました。つまり、アプローチショットでの弾き、つまり初速を抑えて、スイングスピードなりにゆっくり飛ばせるように改善してほしいという要望です。そこで新しい製品では新開発したリアクティブ・ウレタンカバーを採用しました。これは従来のカバー素材に衝撃吸収剤を新たに配合したもので、これによってフルショットで初速を維持したまま、アプローチショットの初速のみを抑えることに成功しています」(ブリヂストンスポーツ 技術開発部 水谷大地)
当初、ボール開発チームは選手たちが従来のボールとの違いに気付いてくれるかどうか不安でした。しかし驚くことに、渡邉選手が新しいボールでアプローチショットを初めて試打したとき、フェースにボールが当たって飛び出すのとほぼ同時に「これまでよりも飛びすぎない!」と声を発したのだとか。そして従来のボールよりもアプローチの距離感やフィーリングが合うという評価も得られました。渡邉選手が勝利した試合で感じた「ボールをゆっくり飛ばせて、イメージどおりにピンに寄せられた」という表現は、まさに新開発したリアクティブ・ウレタンカバーの効果によるものだといえます。
「手に伝わる感覚と、ボールが転がるスピードが同じ感じ。新しいボールではパターのタッチが本当に合わせやすくなった」(試合4日間を通してのパッティング)
ほかにも、ブリヂストンのボール技術は、パッティングの場面においても効果を発揮しています。
「渡邉選手がパターの距離感が合うようになったと指摘するのは、おそらく衝撃吸収剤を配合して新開発したリアクティブ・ウレタンカバーによる効果だと思います。この新しいカバーは、ヘッドスピードが遅い領域でのみ影響するのが特徴です。ボールの初速が抑えられていることで、ツアー会場の高速グリーンでもタッチを合わせやすくなったのだと推測します」(前出、水谷大地)
ドライバーの飛距離でアドバンテージを取り、思いどおりのアプローチショットでピンに寄せ、繊細なパッティングでボールをカップに沈める。その一打一打を可能にするボールが、選手たちを勝利に導くことになります。ゴルフボールの直径は、ルールで4.2672cm以上と決められています。この小さなボールに、ブリヂストンの多くの研究成果と独自技術、それに加えて選手たちを勝利に導きたいという開発者の強い思いが詰め込まれています。
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