完全なレースを目指す
秦由加子
初出場のリオデジャネイロ2016パラリンピックで堂々6位に入賞した秦選手。ゴールでは清々しい笑顔を見せたが、悔しさは拭いきれなかったという。最初のスイムを2位で上がるも、続くバイクで6位に後退、最後のランではその順位を懸命にキープした。改善点が見えている今、自分はまだまだ伸びるという確信が秦選手にはある。4年後の東京2020パラリンピックの表彰台へ。そのロードマップを描いてもらった。
01トレーニングの中断で時間を無駄にはできない
リオ2016の選考から本番までは2カ月足らずで特別なことは何もできなかったのですが、精神面ではそれがプラスに働いて、力まず、構えず、平常心で望めました。ただ、切断している足の状態が良くなくて思うような練習が積めないときがあり、苦しかったです。東京2020まで4年しかない中、練習の中断で時間を無駄にはできません。何よりもまず、健康でトレーニングを続けられる体づくりが重要だと考えています。特に私はまだ義足のトラブルを抱えていて、数百グラムの体重増加やむくみが影響しますし、トレーニングで筋肉がつくと足の形状自体が変わります。体調管理と同時に体に合った義足づくりも必要です。
02レース経験を積んで状況判断や競り合いに強くなる
私の強みはスイムですが、それをさらに強化して、常にトップで上がれるようにします。プールで泳ぐのと違い、海や川でのレースは天候や波や流れなどさまざまな環境に左右されます。そうした中、どんなコース取りでどう泳ぐか、的確に状況判断していかなければなりません。それまでのレース経験が生きているという実感もあるので、今後、実戦でさらに磨いていきたいですね。それから、リオ2016は出場人数が多かったので、バトルも初めて経験しました。こんなにもぶつかり合い、引っ張り合うのかと思いましたが(笑)、競り負けなかったので2位につけられました。これからは競り合いのテクニックも身につけたいです。
03ゴールまでずっと前を走り、後続を振り切る
スイムをトップで上がったら、その先ずっとゴールまで前を走り、後続を振り切るような完全レースを目指したいです。バイクはいつも追われる立場で走りますが、徐々に差を詰められ、抜かれたときは本当に悔しいですし、抜かれると追いつけません。特に障がいの種類の違う選手が一緒に走るパラトライアスロンでは、圧倒的にランが速い選手もいます。そういう選手に勝つためにも、バイクでさらに引き離す必要があるんです。新しい試みとして、義足をつけずにバイクに乗る練習を始める予定です。海外には義足を使わない選手も少なからずいて私にも合っているかもしれないので、トライしてみる価値はあります。
04東京2020でメダルを手にするために
これまで4位など僅差で表彰台を逃すことも多かったので、あと一歩追い込んで、表彰台に必ず上がれる選手になります。出場人数が多い大会ほど難しくなりますが、東京2020でメダルを取るには世界選手権で常に表彰台に上がる位置にいないと。パラリンピックが特別であることは今回リオ2016で実感しました。海のポンツーン(浮桟橋)でスタートを待っているとき、私たち選手が静かに集中する一方、ビーチには今まで見たことがないくらい大勢の人がいて、声こそ届きませんが歓声を上げているのがわかるんです。バイクやランでは実際に声援を受け、鳥肌が立ちました。東京2020ではもっと大きな感動が待っていると思っています。
秦由加子YUKAKO HATA
1981年千葉県出身。3歳から10歳まで水泳を習う。13歳で骨肉腫を発症し、右足の大腿部切断を余儀なくされてからはスポーツから遠ざかっていたが、2008年に障がい者水泳チームで水泳を再開。2013年にトライアスロンに転向し、リオ2016パラリンピックへの出場を果たした。2021年の東京パラリンピックに連続出場。
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