速く、強く、美しく。
「スマイルジャパン」は止まらない。
後編:平昌2018冬季オリンピックのメダルを目指して
スマイルジャパン
今シーズンを「競争」がテーマの合宿から始動させたアイスホッケー女子日本代表「スマイルジャパン」。世界ランキング上位国が相手の平昌2018冬季オリンピックをいかに闘い、勝ちを取るか。これまで以上に厳しい挑戦の旅が始まった。
今のままではランキング上位国と戦えない
「昨シーズンに平昌2018冬季オリンピック出場権を勝ち取った選手たちにも満足してほしくない」
今季初となる6月の合宿で、山中武司アイスホッケー女子代表監督が掲げたテーマは「競争」だった。
メンバーは、平昌2018冬季オリンピック最終予選を勝ち抜いた代表選手21名に、若手有望選手14名を加えた35名。他国とのテストマッチが組めないこの時期、チーム内の競争がレベルアップの近道だと考えたのだ。
平昌2018冬季オリンピックの女子アイスホッケーは、2016年の世界ランキング上位5カ国(1位;アメリカ、2位:カナダ、3位:フィンランド、4位:ロシア、5位:スウェーデン)と、開催国である韓国(2016年23位)、そして最終予選を勝ち抜いたスイス(同6位)と日本(同7位)で争われる。
昨シーズンは「スピード・スタミナ・運動量」で勝負することを掲げ、国際試合で快勝してきた。しかし、「これからはそれだけでは勝っていけない」と山中監督。今まではランキング下位または同等のレベルの国との試合だったので、少しのミスはカバーがきいた。
「今後は全く違います。先の3つにパスワークやスティックコントロールなどの技術を加え、得点能力を上げていかなければ戦えません」
試合終盤で足が動けば相手のミスを誘える
選手たちに特にこだわらせているのが、パスワークだ。大柄な外国人選手に対して同じパワーホッケーをやっていては勝算がない。
日本チームの持ち味であるスピードと運動量を活かすには、「間を縫ってパスをつなぎ、速い攻撃でゴールを狙うこと」だと山中監督。パスレシーブの精度を上げることが、まずひとつ大きな課題だという。
走る練習も増やしている。合宿では氷上練習の後の陸上トレーニングでも、スプリント(短距離走)やインターバルトレーニング(全力疾走とレストを繰り返す)などで限界まで走り込む。
「試合終盤になっても足が動いていると、相手がついてこられない。すると相手は自ずと反則を犯すようになり、我々に有利になるんです。日本は後半になるほど良さが表れるチームだと思ってます」(山中監督)
ソチ2014の悔しさを胸に刻んで
日に日に厳しさを増す練習を、選手たちはどんな思いでこなしているのか。
ひとつには、ソチ2014冬季オリンピックのリベンジという思いがある。
アイスホッケー女子日本チームは、長野1998冬季オリンピックに開催国枠で出場して全敗。その後は世界の厚い壁の前になかなか予選を突破できず、ソチは4大会ぶりの、初めて自力で獲得した出場だった。
しかし、またも結果は全敗。
ゴールキーパー・藤本那菜選手は当時を振り返り、「世界トップクラスとの差を痛感した」と話す。
「みんなが悔しい思いをしました。自分たちでは通用しないと思い知らされ、選手もスタッフも、何か変えなきゃいけない、と。実際にソチの後、合宿の内容も、トレーニング方法も、チームづくりや選手同士の関係性も変わりました。それで今があるんです」
藤本選手自身も大きく成長した。昨年は世界初の女子プロリーグ、米国NWHL(National
Women's Hockey League)で唯一の日本人選手として活躍。外国人選手との試合経験を積んで。考え方や守り方も変わったという。
「何も分からない状況で戦った」というのは、フォワード・浮田留衣選手だ。当時17歳、最年少での出場だった。
「相手がどんなチームでどんな闘い方をするかもわからずに、ただシュート数を少しでも多くするとか、小さなことしか考えられませんでした」
だが今は、自分が何をしなければならないか、チームの中での役割が明確にわかっている。
平昌2018を見据えて自分のプレーと向き合う
4年前とは確実に違う手応えを得て、選手たちは平昌2018を見据え、それぞれに自分のプレーと向き合っている。
藤本選手のモットーは「安定感」だ。
「キーパーがミスをすると直接失点につながります。失敗ができない覚悟と責任を負うポジションですが、逆に言えば、キーパーがすべて止めればチームは負けない。藤本が守っていれば大丈夫だと、選手からもスタッフからも頼られる存在でありたいです」
どんな試合展開になっても後ろから冷静にサポートするこの守護神に、仲間からの信頼は厚い。
「キーパーには1本も届けさせないという思いで体を張って守っている」というのは、ディフェンスの鈴木世奈選手。ディフェンスでありながらアジリティ(方向転換やダッシュなどの敏捷性)やスピードに定評があり、自身も「スピードのスケーティングやパスレシーブの練習のほか、攻撃参加に必要なのでシュートの練習も積んでいます」という。
フォワード・米山知奈選手が心がけているのは、3ピリオド60 分を通して行うハードワークだ。「どんなときにも戦う姿勢を見せてチームに貢献したい」と話すが、試合でのその集中力に励まされる選手は多い。
同じくフォワード・浮田選手は、自身の持ち味を「大きな体格を活かしたバトルや強いシュート」だと話す。
「外国人選手にも力負けしないプレーで、少しでもスコアリングチャンスにつなげたいです」
ゴールを目指してひたすら前に向かう姿は外国人選手にとっても脅威で、日本の攻撃力アップの原動力になっている。
私たちは「スマイルジャパン」目指すはメダルの獲得
オリンピックは特別な舞台だ。ソチ2014の経験は選手たちの胸に悔しさを刻んだ一方で、この大舞台で勝てたらどんなに感動的かと、強い憧れの種をまいた。
目指すはメダル獲得である。山中監督の思いも熱い。
「男子と違って、女子はルールでボディチェック(体当たり)が禁止されています。フィジカルハンデを思えば、日本チームの強みを活かしやすいとも捉えられる。平昌2018で戦うトップレベルの国々とはなるべく早くテストマッチを組みたいですね。
何が通用し、何が課題として残るのか見極めて、メダルが獲れるチームをつくっていきます」
「スマイルジャパン」の愛称の由来はご存じだろうか。
ソチ2014大会を前に行き詰まってしまった代表チームの選手たちを、当時カナダから招いていたカーラ・マクラウドコーチが励ました。「どんなときも笑顔でいましょう」。それで実際に力を得た選手たちが、自ら選んだ名前である。
それから4年。例えば辛い練習や苦しい試合展開になったとき、「でも、私たちはスマイルジャパンだよね」と笑顔をつくれる。笑顔で、気持ちを立て直せる。自分たちがつけた名前に、逆に支えられていると感じることがあるそうだ。
平昌の氷上で、彼女たちの最高の笑顔が見たい。
スマイルジャパンSMILE JAPAN
アイスホッケー女子日本代表チーム。1990年、第1回女子アイスホッケー世界選手権に初出場。
オリンピックは1998年の長野冬季大会から正式種目となり、開催国枠で初出場。その後は最終予選での惜敗が続き、2014年のソチ冬季オリンピックに4大会ぶりに出場。チームの愛称「スマイルジャパン」もこのとき決まった。世界ランキングは2020年に過去最高の6位を獲得。2018年の平昌冬季オリンピックで果たせなかった「初のメダル獲得」を目標に北京に挑み、オリンピックで初の決勝トーナメントに進出した。
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