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「常に思うことが大事」
だから思う気持ちは誰にも負けない

松田 祥位

  • インタビュー
  • 自転車競技・トラック
松田 祥位

2022年には個人追い抜きで日本新を記録した松田祥位選手。そんな松田選手が募らせるオリンピックへの思いはとてつもなく大きい。自分に足りない部分を補っている、ある独特な方法とは――。

体力の基盤は往復60キロの自転車通学

― 自転車競技を始めたきっかけは?

中学3年生の時、友達がマウンテンバイクに乗っていて、それに乗せてもらったらめちゃくちゃ楽しくて。それから自転車で山とかに行くようになりました。ロードレースを知ってからは「ロードバイクっていいな」って思って、高校は自転車に強い高校を探しました。本格的に自転車競技を始めたのは岐阜第一高校に入学してからですね。

― 学生時代には往復60キロくらいを自転車で通学されていたそうですが、なぜ自転車で通おうと思われたのですか?

特に考えはないのですが、「まあ、自転車でも行けるかな」みたいな感じですね。毎日、一般交通機関を使って通うのも面倒くさいし......。競技用の自転車にライトを付けて、荷物は全部リュックに入れて、雨の日には白いカッパを着て通っていました。当時、毎日積み重ねてやってきたことは、体力の部分で活かされていると思います。

松田祥位選手

海外での挑戦、そして挫折――

― 2018年のアジア選手権では、U23の個人タイムトライアル3位。2019年にはフランスの個人タイムトライアル大会で優勝するなど、実力が結果として出始めました。そんな中、2020年にフランスの名門アマチュアチームに加入されました。

自転車を本格的に始めた頃から海外でレースがしたいと思っていて、高校卒業後には海外と日本に拠点を置くチームでやって、そこからクラブチーム→プロチームというように、徐々にステップアップしていこうという計画を描いていたんです。でも2020年にフランスのクラブチームにようやく行けるってなった時、新型コロナウイルスの感染拡大......。なかなか思うようにはいかなかったですね。

― 異国の地での挑戦は大変なことも多かったのでは?

気持ちの面では大変なこともありました。例えば、街まで出掛けるとアジア人の僕に対しての視線みたいなものを感じたりして......。ちょっとバスに乗るのも気が引けてしまいますし、堂々としていられない毎日の積み重ねがストレスになっていました。

― 挫折も味わって帰国されてからはスーパーのレジも経験されたそうですね。

帰国後はほぼ毎日のようにアルバイトに行っていました。お肉も国産しか置いていないような、ちょっといいスーパーだったんですけど、レジだけじゃなくて品出しもやりましたし、色んな事を経験しました。

― アルバイト生活から一変、TEAM BRIDGESTONE Cyclingへの加入となりました。

当時、海外にも拠点を置いているクラブチームからもお声がけいただいていて、そろそろお返事をしないといけないっていうくらいのタイミングでTEAM BRIDGESTONE Cyclingから連絡をもらいました。すごく熱意をもってお話いただいて、色々と考えた結果ここに加入することを決めました。強い選手もたくさんいるので。お話をもらったときは素直に嬉しかったですね。

松田祥位選手

コントロールの方法はメトロノーム!?

― トラックとロード、それぞれの面白さはどんなところですか?

見ている側の視点では、トラックは走っているところをずっと見ていられるところですね。ルールさえ知っていればとても面白いと思います。あと、選手との距離が近いところも魅力のひとつです。ロードに関しては、専用の競技場ではなく自然の中を風を切りながら走行するので、よりスピード感を感じることができるんじゃないかな。
走っている側の視点では、レース系の種目の場合、常に頭が回ってないといけないんですけど、その考えること自体が楽しさだったりもします。僕は個人追い抜き(パシュート)のように淡々と走る種目が好きなので、いかに自分の中でコントロールして走るかという部分に面白さを見出しています。

― 2022年10月に開催されたトラック世界大会では個人追い抜き(パシュート)で日本新を記録されました。レースの時にコントロールされていることはありますか?

僕はいつも2周目にすごいパワーが出てしまうんです。でも、そのパワーを維持して16周を走ることは当然できないので「落とそう、落とそう」と自分をコントロールしています。上げるより落とす方が簡単じゃないですか? だから「落とすのは簡単じゃん!」って思いながら走るようにしています。

― 上げたり落としたり、具体的にどのようにコントロールしているのですか?

ケイデンス(1分間における自転車のペダルの回転数)をメトロノームで「音」として予め聞いておいて、それを頭で覚えるんです。そして、レースの状況を見ながら、「これぐらいなら行けるな」っていうケイデンスで走るようにしています。だから僕はいつもレース中に走りながら自分で数えています。1、2、3、4、5......って。
これから僕が走っているときには一緒に頭のなかでメトロノームを鳴らしながら見てもらえるといいかもしれないですね。

― 周りの選手は松田選手がカウントしながら走っていることはご存じなのですか?

はい、みんな知っています。メトロノームを置いて練習することもあるので。僕はトラックの経験が少ない分、自分なりのやり方でカバーしようと思って独自に編み出した方法です。

― もはや「人間メトロノーム」ですね!

1周ごとのタイムを確認しながら考えてもいいのですが、タイムを見るまでには時間がかかって、すぐには分からないんですよね。1周が約14秒かかるので、その14秒間は聞けなくて、その間に自分のペースが変わっちゃうかもしれないし......。だから、少しでも早くスピードを安定させるために僕なりに考えてやっていることです。
こんなこと、やらない人がほとんどだと思いますが、レースは1発勝負なので、絶対に失敗したくないんです。そこは1走としての責任感ですね。
カウントすることが当たり前になっているので、日常生活でも歩いているときに歩数をカウントしちゃったりすることもありますけど(笑)。

― 人間メトロノームを習得して得をしたことはありますか?

何かあるかな......。あっ、そういえば! 少し前にゲームセンターで、クルクルクルクルって光がまわっていて、決まったところで止めるゲームで景品を獲りました。もしかするとリズム感は他の人よりあるのかもしれないですね。

― 個人種目の時にも人間メトロノームは発動させているのですか?

はい、タイムトライアル系の個人追い抜き(パシュート)でもやっています。

松田祥位選手

成長とともに、本能から組み立て型へ――

― 過去には「本能でやっている」と仰っていたこともありましたが、今も変わらずですか?

今は完全に組み立て型ですね。前までは本能でやっていたんですけど。徐々にそっちになっちゃった感じで。「この時はよかった」「あの時はダメだった」というように、結果にバラつきがあるのではなく、コンスタントに結果を出すことが大切だと思うからこそかもしれません。

― プライベートでも組み立て型?

プライベートは違うかな。どこかに遊びに行くってなった場合には、とりあえず行き先だけ決めて、あとは行ってから考えますね(笑)。やっぱりプライベートは本能で過ごした方が楽しいですよね!

― エネルギーをどこで使うかを考えたり、オンとオフをうまく切り替えたりするのは自転車競技を始めてからですか?

いえ、小さい頃からですね。幼稚園で鼓笛をやったときの話を母から聞いたのですが、その発表会が終わるまでは気が張ってピリピリしていたみたいです。ずっとムスっとして......。でも終わったとたん、気が狂ったみたいに遊び出した僕を見て、オンとオフを切り替えている子どもだと思ったそうです(笑)。

― 「アスリートは常にストイックであるべき」ということも以前に仰っていましたが、松田選手のストイックな一面は?

例えば、お菓子に対して「これはよくない」と思ったとすれば、それをある程度嫌いになれちゃいますね。本当は嫌いなわけじゃないけど、自分にそう思わせるんです。嫌悪感を抱くくらいに(笑)。そうすると、買い物に行った時にはお菓子コーナーは見なくなったりします。

― 普段、お菓子は食べないのですか?

おせんべいとかは食べますよ。日常的に食べるわけではなく、気が向いた時にですけど。チョコレートなどの甘い物はあまり食べないですけど、カカオ成分が多めのチョコレートは好きですね。僕のお気に入りは90%。75%くらいだと甘味を感じてしまうし、99%までいくと強すぎるので、90%がカカオバターみたいな感じもしてちょうどいいんです(笑)。

松田祥位選手

自分の中にあるメトロノームはオリンピックに合わせて動かしていく――

― パリ2024オリンピックもいよいよ迫ってきました。今はどれくらいの熱量ですか?

TEAM BRIDGESTONE Cyclingに加入した時からパリ2024のことを常に考えています。僕はそのつもりでここに来て、これまでオリンピックのために準備をしてきたので。今はまだベース作りの段階なのでピリピリしているわけではないですが、パリ2024から逆算すると、2024年の4月か5月あたりからピリピリし始めればいいかなって。
僕は熱量が大きすぎるとオーバーヒートしてしまう傾向があるので、今はあえて抑え気味なんです。逆算することはすごく大事で、これってどんな職業でも大切なことだと思っています。

― これまでの松田選手の言葉から、オリンピックに対する思いがヒシヒシと伝わってきました!

僕はオリンピックのことをず~~~~っと考えています。プライベートの時間でも。だからオリンピックに対する気持ちは、誰にも負けないんじゃないかな。僕は常に思うことが大事だと思っているんです。というのも、たまに思う人と常に思っている人では、それに対する熱意の入れ方が違うと思うからです。
パリ2024に向けてのエンジンはまだかけていませんが、これから自分のタイミングで熱量を上げていきます。オリンピックの時にピークがくるように、僕の中のメトロノームを稼働させていければと思っています。

PROFILE

松田 祥位

松田 祥位SHOI MATSUDA

1999年生まれ、岐阜県出身。中学3年生の時に友人のマウンテンバイクに乗せてもらったことがきっかけで、自転車の楽しさを知る。自宅から60㎞離れた自転車競技の強豪である岐阜第一高校に入学し、本格的に競技を始める。高校卒業後、2020年にはフランスのトップアマクラブチームに所属するも、新型コロナウイルスの感染拡大により活動が思うようにできず、日本へ帰国。2022年よりチームブリヂストンサイクリングに加入し、2022年個人追い抜き(パシュート)アジア新記録、日本記録を更新。2023年オムニアム全日本選手権で優勝。

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    TEAM BRIDGESTONE 2024 in PARIS

    TEAM BRIDGESTONE 2024 in PARIS

    ブリヂストンは、オリンピックおよびパラリンピックのワールドワイドパートナーとして、パリ2024大会を応援しています。

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