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強さは作り上げていくもの
僕はずっと強くあり続けたい――

窪木 一茂

  • インタビュー
  • 自転車競技・トラック
窪木 一茂

2023年もトラック世界自転車競技選手権大会(男子スクラッチ)で銀メダルを獲得するなど、強さをアピールし続けている窪木一茂選手。冷静に語る瞳の奥には“強さ”に対する熱い思いが写っていました。

"JAPAN"に憧れて始めた自転車競技

― 窪木選手は自転車選手としては小柄な方だと思いますが、体格の違いはレースに影響しますか?

体が大きいと風をすごく受けるんです。風といかに仲良く過ごすかっていうことが僕ら自転車選手のテーマでもあるので、そういう部分では室内でも屋外でも小柄な方が風を受けにくいので有利な部分です。
スポーツの世界では体の大きな選手が有利なイメージもあるかもしれませんが、バスケットボールでいうと小さな選手で、すばしっこいポイントガードの選手みたいな感じですね。

― 自転車競技を始めたきっかけを教えてください。

高校に入るまではサッカーやバスケットボール、陸上をしてきましたが、東北大会までしかいったことがなくて、全国大会とは無縁......。全国の舞台ってどんな感じなんだろうって思っていました。
それで全国大会に出ている高校の部活を調べていたら、野球、ハンドボール、自転車などが出てきたんです。たまたま同じ中学校の友達が自転車部の見学に行くって言うんで一緒に行きました。その時に"JAPAN"って書いてある日の丸を付けたジャージを着ている先輩がいたので、友達に「あのジャージ、何なの?」って聞いたら、「日本代表のジャージだよ」って。
もともとサッカーの日本代表がすごく好きで憧れはあったので、その先輩を見た時に「かっこいいな」「僕も日本代表になりたい」って思ったのがきっかけです。少し考えて、夏くらいに入部しました。

― 高校2年の時には兵庫国体・少年の部ポイントレースで優勝するなど、みるみる結果が出ました。

入部した当初は「自転車部って何それ?」って、理解が難しかった部分もあったのが正直なところですが、実際にやってみると結果が出てきたので楽しくなりました。

― もともと運動神経は良かったのですか?

そうですね。割と良かったほうかなと思います。でも自転車競技って、運動音痴でも強くなるんです! 実際に事例もありますよ。ある選手は生粋のゲーマーで、レースが終わった瞬間から、あぐらをかいてゲームをしているんです(笑)。でも自転車競技のトップで活躍している。これは運動神経とかではなくって、もう才能ですよね。

― 運動神経だけでなく、センスや才能も大切な要素なのですね。

そうですね。人それぞれ「良さ」があるんですよね。だから、自転車競技って運動神経が全てではないんです。
『弱虫ペダル』という有名な自転車競技を題材にした漫画があるんですけど、その主人公も運動は得意じゃないんです。でも自転車に乗るとすごく強くなるっていう設定で。漫画の話ではあるんですけど、一概には言えないのが自転車競技なんです。

窪木一茂選手

自転車から生まれるコミュニティ

― 窪木選手が感じる自転車の魅力は?

すぐに移動できて健康的だし、車に乗っているとなかなか気付けない部分に気付けるところですね。車だったら早いし寒くもないし便利だと思うんですけど、自転車だと美味しいお店があったら止まれるし、車よりも身近なものに触れることができて、季節も感じられるところが魅力ですね。
ECOやSDGsが進んでいることによって、自転車にも注目されてきている気もするので、余計に「自転車っていいじゃん!」って思います。

― 普段はどんな自転車に乗っているのですか?

近場に出掛けるときには27インチのママチャリに乗っています。ちょっとサビちゃってるんですけど、油を差しながら使っています。知り合いになったご近所さんの自転車にも油を差してあげることもあります。シャリシャリ、キーキーってなっている時は、一定の場所に油を差してあげるだけでかなり生き返って、長く使えるようになるので喜んでもらえています。

― ご近所さんとのコミュニティが自転車のことをもっと好きになってもらえるきっかけになるといいですね。

そうですね。だから油はふんだんに差しています(笑)。皆さんから「がんばってるね」とか、レースに勝った時には「おめでとう」って言ってもらえるのがとても嬉しいですし、僕も「自転車で困ったことがあったら声をかけてくださいね」って言っています。自転車を通して人とのつながりができることは本当に幸せなことだと思います。

窪木一茂選手

チームの中心となって走れていることへの感謝

― 大学卒業後、和歌山県庁に就職。2016年からは渡欧してプロ選手として本格的に活動を開始。そして2018年にはTEAM BRIDGESTONE Cyclingに加入と、さまざまな環境を経験されましたね。

そうですね。渡欧した時には、また日本に戻って再チャレンジすることは難しいと思っていました。でも、年齢的にも20代後半になると海外でのロードレースの挑戦は、本当に狭き門になってしまうので、日本に戻ってトラックレースでオリンピックを目指しながらロードレースも頑張るという形にシフトしてよかったと思っています。
結果も出てくれていますし、競輪という道も日本にいるうちは挑戦できるので、今こうしてチームの中心となって走れているということにすごく感謝していますし、この環境に満足しています。

― チームパシュートは4人で行う競技です。これまでの経験などを活かしてリーダーシップを執ったりするのですか?

年齢が上で、経験があるからといって、「よし、みんな行くぞ!」って指揮を執るタイプではないですね。基本的に後ろから全体を見ている感じで、僕が何もしなくても皆の自主性でまとまっているのならそれでいいですし、「もうちょっとスパイスがいるかな」って思ったときには声を掛けるくらいですね。

窪木一茂選手

挫折も経験。そこから掴んだ手応え

― これまでで一番の挫折は?

 東京2020オリンピックで選ばれなかったことですかね。僕の描いていたストーリー通りではなかったっていう部分で挫折だったかなと思います。
大学の頃から「この先こうなっていたい」というストーリーを計画ノートに書いていたのですが、2018年まではあるんですけど、その先がなくて......。東京2020を目指すために日本に戻ってきたことが自分の計画とは違っていて、だから意思が揺らいだのかもしれません。
実際にオリンピックに対する準備の時間も足りなかったのだと思います。他のメンバーはリオ2016オリンピックが終わった直後から準備をしてきていたのに、自分の場合は2年前の直前に戻ってきて......。やっぱりオリンピックの舞台は簡単に立てるものではありませんね。東京2020の時は考えが甘かったなと思います。

― パリ2024オリンピックに向けて手応えはありますか?

リオ2016の時と比べると、「勝負できる!」という感覚はあります。2023年のトラック世界自転車競技選手権大会(イギリス・グラスゴー)では男子スクラッチで銀メダルを獲ることができましたが、オリンピックという舞台は全然違うので、しっかりと集中して取り組んでいきたいと思います。目標は表彰台に上がることです。

― パリ2024後のことは考えていますか?

パリ2024で終わりっていうつもりは全然なくて、次も目指せるならがんばろうかなって思っていますね。やっぱり自転車が好きなので。

窪木一茂選手

僕はまだまだ強くなれる

― 若い選手がどんどん力を付けてきている中、危機感などは感じたりしますか?

危機感は感じていないですね。僕は若い選手たちに比べると色んな経験がある分、気持ちの部分で余裕はあるかなって思いますけど、これまで自分が優位だと思ったことはなくて、「まだまだやれる」「まだまだ強くなれる」と思っています。
ロードレースもトラックレースも「ヤバイ、強いな」と思う選手はどんどん出てきます。でも「自分にもきっとできるはず」と思っているので、今の自分よりさらに上を目指すようにしています。

― これからもパワーアップする窪木選手が見られるということですね!

僕は、強さは作りあげていくものだと思っているんですよね。その時に強いなって思っても、その選手が3年後も強いかどうかは分からない。だから、その時だけ強いのではなくって、ずっと強くあり続けたいなって思います。
せっかくやるなら「一番」を目指してやりたいですし、僕は負けず嫌いで勝負事が好きなので、そのような気持ちを持っています。

― 最後に、窪木選手にとって自転車とは?

大好きな仕事です。

PROFILE

窪木 一茂

窪木 一茂KAZUSHIGE KUBOKI

1989年生まれ、福島県出身。学校法人石川高等学校入学後に自転車競技と出会い、自転車競技部に入部。高校3年生でカナダでのツール・ド・ラビティビにジュニア日本代表として参戦し最終日には日本人初となるステージ優勝を獲得する。日本大学に進学し大学3年時インカレにてポイントレース、個人パシュートで優勝。大学卒業後、日本代表としてオリンピックを目指す以上は日本に生活環境を置かなければいけないと考え、和歌山県庁に就職。職員として働きながらプロチームにも所属し自転車競技を継続する。2013年に東京国体で優勝、2015年には全日本自転車競技選手権ロード・レース優勝。2016年よりイタリア籍のチームに所属し渡欧、プロ選手として本格的に活動を開始する。2018年よりチームブリヂストンサイクリングに所属し全日本選手権六冠を達成した。

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    TEAM BRIDGESTONE 2024 in PARIS

    TEAM BRIDGESTONE 2024 in PARIS

    ブリヂストンは、オリンピックおよびパラリンピックのワールドワイドパートナーとして、パリ2024大会を応援しています。

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