佐藤琢磨選手トークショー (2) 過酷なレースを支えるファイアストンタイヤ

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2017年1月14日に、東京オートサロン2017のブリヂストンブースで、レーシングドライバーの佐藤琢磨選手をお招きしてトークショーを開催しました。

今回はそのトークショーのご紹介第2弾です。(全3回)

⇒佐藤琢磨選手トークショー(1)はこちら

ピストン西沢(以下西沢):今考えるとF1よりインディカーの方がキャリア長いね。

佐藤琢磨(以下佐藤):全然長くなっちゃいましたよ。

西沢:F1ドライバー佐藤琢磨じゃなくて、完全にインディドライバー佐藤琢磨ですよね。

佐藤:響きは、F1いいなあと思いますけど。(笑)

西沢:F1のレースを見ることありますか?

佐藤:見ますよ。もちろん。

西沢:最近のF1のこと分かってるんですか?

佐藤:はい。鈴鹿で色んなこと喋ったりしなきゃいけないので。でも、ファンのほうが詳しいですね、やっぱり。

西沢:そうだろうね。F1の話は、インディドライバーの間で話題にのぼることあるんですか?

佐藤:あんまりないかな。

西沢:インディとF1では、人と人の、車の、メーカーの行き来はあんまりないんですか?

佐藤:そうですね、インディカーの場合、各サーキット、レースに行ったら自分たちのことで精一杯ですね。だからF1でもよっぽど面白いレースだったり、たとえばマックスがいきなり移籍して勝っちゃったみたいな。ああいう時は「すごいよね」って話をしたり、「車がとんでもなく速いよね」って話はするけれど、全体的に昨日のレースどうだったとかいう話はあまりしないですね。

西沢:同じ時期にシーズンやってるわけですからね。

佐藤:ただF1からインディに来たドライバーは、やっぱり「自分はF1を走ってきたんだ」っていう気持ちがあるんです。僕も少なからずあった。だから「インディは乗れるよ」って思うんですけど、全然そんなことない。難しいですね。

西沢:スペック的には落ちますけど、車以上に走れるわけじゃない。車なみに走らすって難しいんでしょう?

佐藤:そうですね。ひとつひとつを見ればF1のほうが洗練されているかもしれない。インディはF1のように高価な素材は使えないけれど、大きさという意味では負けてないですね。ボディサイズも大きいし、タイヤも全然大きい。だからメカニカルグリップという意味では、たぶんF1よりインディカーの方が高いですね。

西沢:語弊がありますけど、インディのほうがタイヤに神経配る。スピード域が高いから。特にオーバル。

佐藤:そうですね。

西沢:ドライバーがタイヤにこだわるってことでいったら、より高いような気がするんですが、どうですか?

佐藤:ものすごくこだわりますね。ファイアストンもエンジニアとやっているわけですが、安全性という意味ではF1よりも高いところにプライオリティを置きます。

(写真は2016年のインディカー・シリーズの様子です。)

西沢:ブリヂストンのファイアストンというブランドがあって、そのタイヤでインディはやっている。伝統あるブランドでね。

佐藤:タイヤのトラブルは一切ないですね。350km/h、それも平均速度がそういう速度なので、タイヤトラブルは絶対あってはいけない。

西沢:思い出しますね。昔、F1のアメリカグランプリで、某社のタイヤのチームが全部リタイヤして、あの後しばらくアメリカグランプリが開催できなくなった。オーバルトラックは上からすごくGがかかるので、2005年ぐらいのサンクスイベントで、琢磨がF1で茂木のオーバルをガンガン走った時に、ブリヂストンのエンジニアが横にいて、「やめてくれよ、もうそこデータないんだよ」って言ってましたよ。

佐藤:大丈夫ですって。

西沢:結構心配してたよ。

佐藤:危なくなった時はわかるから。

西沢:バイブレーションとか、そういうのがわかるの?

佐藤:砕け方でわかりますね。つぶれ方で大概。

西沢:さっきより腰砕けになってるなと思ったら、タイヤ限界かなという風に。

佐藤:すぐにアクセル戻します。負荷という意味では、確かにF1のほうがダウンフォースが出ていることもあるんです。インディカーの場合はスピードに対する強度がすごく大事なんですが、それはスーパースピードウェイに限った話。オーバルにもショートオーバルというのがあるんです。ショートオーバルは、1周18秒ぐらいですごく小さい。1周18秒のうち10秒ぐらいコーナリングしてる。アイオワのすり鉢状の小さなコースだと、どれぐらいのGがかかると思います?

西沢:「気持ち悪い」じゃすまないと思う。血が下がる?俺はね、テストコースで240km/hぐらいでオーバルに入ると血が下がります。

佐藤:そうですね。あれはまっすぐ下に垂直加重になるような。

西沢:やばいと思ってアクセルを抜きますけど。俺ぐらいの心臓だとそうなっちゃうんだけど、選手たちはちゃんと鍛えていて、心臓ポンプが強いと思うから、それでも血を送れると思うんだけど。

佐藤:でもね、息上がりっぱなしですよ。ちなみに2004年のF1のお化けみたいなマシン、ダウンフォースもついていて、あの頃は、コーナーに入れば4Gは確実に出たんです。ハイスピードコーナーだと5Gでした。インディカーも、ロードコースだと大体4Gプラスぐらいですかね。でもショートオーバルに入った時は6Gです。6G。

西沢:6Gって交通事故だね!

佐藤:もう危ないですね。

西沢:それで何時間ぐらい走る?

佐藤:ショートオーバルのレースの場合は2時間弱ですね。

西沢:心拍数はいくつ?

佐藤:ずっと180後半ですね、たぶん。息上がりますよ。

西沢:やっぱりトレーニングしてる?

佐藤:そうですね。

西沢:トレーニングも独特ですよね、モータースポーツって。普通は椅子に座って心拍数180とかいうのはないわけです。

佐藤:フィールドを走り回るスポーツ選手は、明らかに運動量が多く見えるじゃないですか。僕らは座っているだけのように見えるんですが、実はすごいエネルギーを使っていて、1レース終わるとだいたい体重が3キロぐらい減ってしまうんです。じわーって汗も出て、腕がパンパンになります。

西沢:インディドライバーは、昔はわりとぽっちゃりしている人多かったですけど。最近はそうでもないですね。

佐藤:最近車が速くなってきて、半分くらいヨーロッパを経験したドライバーなので、ほぼF1ドライバーと変わらない体型になっています。普段は23、4台で走っているんですが、インディ500だけ33台のフルグリッドになるんです。かつてインディ500を勝った選手なんかが10名ぐらい来る。スペシャリストが。そういう方たちはオーバルだけなので、カモシカのような足とか、そういう感じではないですよね。結構がっちりした足、そういうドライバーも多いですよ。

西沢:ぶつかった時に、そのほうが骨まで守られるという話もありますけど。

佐藤:でも、重たいとぶつかった時に体にかかるGフォースで負担が大きくなるんですよ。どっちを取るかですね。当たった時の衝撃吸収か、自分の持っているマスを小さくするか。

西沢:今までで一番大きなGを受けたのはいくつですか?

佐藤:120Gです。

西沢: 120!すごい!

佐藤:自分の体重が7トンぐらいになりますよね。

西沢:笑いながら言ってるけど、あんた頭おかしいね。

佐藤:でも骨折ったことはないんですよ。ヒビ入れたこともないですね。

西沢:それはオーバルで壁に当たったの?

佐藤:オーバルで300km/hで壁に当たると、70Gとか当たり前ですね。

西沢:それ何回くらい当たったんですか?

佐藤:軽く10回ぐらいは当たってます。

西沢:こりないの?やめないの?

佐藤:嫌ですよ。だから最近当たってないじゃないですか、あんまり。

西沢:当たりたくないからね(笑)。

佐藤:ちょっと怖いですからね。ただ、自分の力ではどうにもならない時もある。いきなりバスンって壊れたりもするわけですから、そういう時はどうしようもないですよね。

西沢:すごいなあ。でもぶつかる角度が浅いからまだ助かるんだろうね。

佐藤:そうですね。直角にドンと当たってぶつかって止まっちゃったらそれはもういないですね、僕。そういう意味では、サーキット側の安全性もすごく考慮されているんです。壁もコンクリートウォールではあるんですが、上から見るとH断面になっていて、空洞になっているんです。ぶつかるとそこで衝撃を吸収する構造になっているんですね。

西沢:それ10年くらい前からだっけ?茂木も最初はそれついてなかったもんね。

佐藤:なかったです。インディでそれが開発されて、今やF1でも使われています。

西沢:ヘルメットもインディのルールでは、エアバッグが入ってなかったっけ?

佐藤:入っています。首をケガした時にヘルメットを外から取ろうとすると、頚椎とかを引っ張ってしまうわけです。そういう時、中に入っている風船に外から空気を入れるんです。そうするとヘルメットが押し出されて、首に負担をかけずにヘルメットが取れる。

西沢:長い時間をかけてドライバーに対する配慮があるんですが、配慮をするならオーバルやめろよ(笑)!

⇒「(3)仮想インディジャパン!」に続く