佐藤琢磨選手トークショー (1) F1とインディはどう違う?

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2017年1月14日に、東京オートサロン2017のブリヂストンブースで、レーシングドライバーの佐藤琢磨選手をお招きしてトークショーを開催しました。(MCはピストン西沢氏)
アメリカのインディカー・シリーズで活躍する佐藤選手。今回は、佐藤選手がトークショーで語ったインディカーの魅力、タイヤの重要性など、内容を(ほぼ)そのまま、全3回でご紹介します!

[佐藤琢磨選手プロフィール]

学生時代の自転車競技から一転、20歳でレーシングスクールに入り、モータースポーツの世界へ。2002年にF1デビューし、2004年アメリカグランプリにて表彰台に上がる。2010年からはインディカー・シリーズにチャレンジし、2013年ロングビーチグランプリにて日本人初優勝を成し遂げ、世界最高峰のレースと言われるF1とインディー両方で表彰台に上がった唯一の日本人ドライバーとなる。2017年は、4年間在籍したAJフォイト・レーシングから移籍し、アンドレッティ・オートスポーツにてインディカー・シリーズに参戦。

ピストン西沢(以下西沢):ゲストはインディドライバーとして活躍中の佐藤琢磨選手です!

佐藤琢磨(以下佐藤):こんにちは。よろしくお願いします。

西沢:モータースポーツのキャリアずいぶん経ちましたね。

佐藤:そうですね。結構長く乗っていると思います。

西沢:失礼を承知で言うと、このキャリアだと、皆だいぶ締めに入るところで、今年トップレベルの有力チームと契約できました。

佐藤:おかげ様で。

西沢:なんとアンドレッティチームですよ!だいぶいいんじゃないですか?

佐藤:相当うれしいですね。

西沢:やっぱり戦闘力って大きく影響するものですか?

佐藤:もちろん違いますね。インディカーは、基本的にはみんな同じ車を使うんです。エンジンメーカーによって、エアロパッケージという車のウィングの形などが違うので、多少のパフォーマンスの差はありますが、基本はものすごい僅差で走ります。F1が、たとえば千分の1秒で計測するところを、インディカーは1万分の1秒です。そうすると、ちょっとしたパーツやセットアップの哲学的な考え方の違いで、ラップタイムはグッと変わってきます。

西沢:アンドレッティは勝ちが狙えるチーム?

佐藤:そうですね。実際にリソースもとても大きいし、これまでの2台体制のチームから4台体制、かつスーパースピードウェイがすごく得意ですね。過去3年間のインディ500で2回優勝している。ものすごい勝率をあげています。そういう意味ではすごく楽しみです。

西沢:スーパースピードウェイって競輪場みたいな楕円形のコース?

佐藤:オーバルコースですね。

西沢:なかなか馴染めないと思うんですけど、最初から馴染めた?

佐藤:要はずっと高速コーナーを走っている感じなので大丈夫です。ずっと鈴鹿130Rみたいな感じです。

西沢:そこが並の神経じゃないですね。危ないことが大好きというね。スリルを追い求めるタイプですか?

佐藤:嫌いじゃないですね。

西沢:レースキャリアで言ったら、同年代のレースドライバーと比べると、実は少ないんですよね。

佐藤:そうですね。今年40歳になるんですけど、レースを始めて20年になります。ようやく25歳みたいな。

西沢:そうですね。20歳からレースを始めてインディで1勝するって、ちょっとありえない。

佐藤:そうですね、それだけを目指してやってきて、先ほど仰っていただいたとおり、本当にキャリアの締めに入る部分でさらに上がっていく。恵まれた環境にいると思います。

西沢:今まで培ってきたものを発揮できる技量というか、そういう部分はどうですか?自分の中でのパーセンテージ、120%ですか?

佐藤:どうだろう。でも、まだまだ学んでいますね。まだまだ学んでいるんだけど、色んな部分で引き出しが増えたというのは確実にありますね。インディカーも8シーズン目になるのかな。F1でも6、7シーズン走って。そういう意味ではヨーロッパもアメリカも色んなこと経験したから、「そろそろちゃんと走れよ」みたいなファンもいるかもしれない。

西沢:ヨーロッパとアメリカ両方経験するって、相当幅広いでしょ。

佐藤:そうですね、でも先輩ドライバーも皆そうですね。

西沢:ヨーロッパから、F1から来て、インディで花開いた人ってそうそういないですよね。そんな中で勝っているわけです。当然成功の部類に入るほうだと思います。

佐藤:ありがとうございます。でも、もうちょっとやりたいですね。

西沢:その柔軟性というか、吸収力というのは、自分の中では得意な部分?

佐藤:どうでしょう。それほど順応能力が高いとは思わないですね。「誰かできるなら、自分でもできるんじゃないか」ってなる。F1でのドライビングスキルは、当然インディカーでも生きてくるんですが、やっぱり種類の異なるものです。特にオーバルコース、さっき話したスーパースピードウェイの走り方は、もう全く違うんです。そういう部分では毎回新鮮な感じがします。

(写真は2016年のインディカー・シリーズの様子です。)

西沢:F1とインディを比較する材料として、ちょっとマニアックな質問です。次の3つのうちで、1番びっくりしたことを教えてください。まず第1、インディのオーバルのスーパースピードウェイを初めて走った時。2番、モナコグランプリ。F1で、狭い市街地コースをすごいスピードで走るやつ。3番、土砂降りのオールージュ。この3つで一番びっくりしたのはどれですか?

佐藤:それぞれびっくりしたけど、やっぱりオーバルのスピード感は半端ないですね。

F1マシンは、サーキットを走るという意味では、史上最強のマシンですよね。軽いし、パワーもある、空力効率もいい。だからスピードという観点で見ると、これ以上驚くことはないと思っていたんですよ。最高速でいうとインディカーのほうが速いのは知っていたけど、そうはいってもモンツァで350km/h近いスピードを経験してる。だから大丈夫だろうと思ってインディアナポリス500の予選に行ったの。そしたら1周の平均速度が380km/hなんです。ストレートエンドなんかは390km/hとか400km/h近いんですよ。

西沢:落ちて360km/hとか?

佐藤:そうですね。僕、1コーナーの内側に立って見てたんですよね。ストレートからファーンって390km/hで来る。速いなと思いますよね。F1の場合、コーナーに入る時には抵抗もあるし、基本的に減速して入るじゃないですか。あの人たちはアクセル全開で入ってくる。そのスライドしてく感じが見て取れるわけです。コックピットの中で修正するんです。380km/hのドリフトをして。なおかつエイペックスというコーナーの頂点、内側についた後、最も抵抗が無くなるように外側に膨らんでくわけです。膨らんでいくのも、F1だと縁石があってその先がコースの外側になる。

西沢:F1で壁に埋まっていくのって、カナダグランプリぐらいですよね。

佐藤:そうなんですよ。要はモナコのガードレールに向かって390km/hで寄っていくみたい。それを見た時は、「これ俺できないかもしれない」って一瞬思いました。

西沢:さすがの佐藤琢磨も。

佐藤:はい、すごいなと。まして風向きにすごく影響を受けるんですよ。1コーナーに入る時は大きなグランドスタンドがあるからいいんですが、2コーナーに入る時に横風でフッと振られる。みんな同じように振られているんですよ。それを、あらかじめ修正舵を当てながら2コーナーに入っていく。すごいなと思いましたね。それがスーパースピードウェイで1番のびっくりでした。

F1で僕が走っていた時代は、モナコグランプリが唯一の市街地でした。市街地は確かにバンピーだし、アンジュレーションもあるんだけど、あそこは毎年舗装をやり直すんです。だから、実はすごくきれいな舗装なんです。路面がかまぼこ状になっていたり、凹凸だったり、マンホールがあったりというのはあるので、普通のF1サーキットに比べるとぼこぼこしているんだけど、それでもF1ドライバーの場合は、ちょっとでも底打ちが激しいと、「危ない」って言うわけです。ドライバーズミーティングで、「危ないから何とかして」と。そうすると、一晩でそこを修正してくれる。

西沢:一晩で。

佐藤:それがF1ですよ。でもインディカーに行ったら穴だらけ。そこら中。ほんとに普通の道路を、10年も20年もほったらかしの街をそのまま走るわけです。5速、6速、全開で。ダウンフォースが車重よりも大きくて、トンネルを逆さまで走れるぐらいのダウンフォースがついているのに、それがジャンプして空転するんですよ。駆動輪が。「危ないよ」って言ったら、「だったら避けてよ。穴を避けて走ってくれ」と言われます。

西沢:「あんたらのために道路作ってんじゃないんだから」みたいな。

佐藤:それこそ、「ちゃんとUSドルもらっているんだから穴を避けろ」と。「こっちは知ったこっちゃないよ」というのがインディカーでしたね。

西沢:鈴木亜久里と同じこと言ってる。亜久里さんがドライバーに色々教えたほうがいいんじゃないですか?

佐藤:亜久里さんのところで鍛えられましたからね。

西沢:同じところで走ってましたからね。

佐藤:そうですね。やっぱりびっくりしましたね。雨のオールージュって意味では、アメリカのレースの場合は、雨は少ないですね。オーバルは、雨で絶対に走っちゃいけないんです。

西沢:市街地は?

佐藤:やります。市街地は逆に言うと、雨は得意にしているほうですね。雨が降ると絶対に前に行けるという自信があるんですけど、だいたい雨が降ったままでレースが終わることがないんですよ。途中で渇き出しちゃうから、ずるずる後ろに行っちゃったりとかね。でも、一昨年のデトロイトだったかな。雨からスタートして最後に乾いても、モントーヤを抜いて2位になった。その時は嬉しかったですね。

西沢:いいレースをたくさん繰り広げている中でも、意外にもオーバルで、最終ラップで攻め込んだ時、あそこなんか、見るべきものがちゃんと出来てきているんで、完全にインディドライバーだなと思いました。

佐藤:インディドライバーになりましたね。

⇒「(2)インディカーはF1より速い過酷なレース?」に続く