今なお愛されるマツダ初代ロードスターのタイヤ「SF325」 その開発の裏側で(前編)

ブリヂストンが偶然保有していた黄色い初代ロードスター。この車のプチレストア(状態が良く本格的なレストアは行わなかった)をきっかけに、マツダとブリヂストンのエンジニアが語った、初代ロードスターの新車開発およびレストア用の復刻タイヤ開発の裏話です。

ブリヂストンは今年1月、マツダ株式会社の初代ロードスター(NA型)のレストアサービス向けタイヤ「SF325」を発売しました。このタイヤは初代ロードスターに新車装着されていたタイヤで、2003年に生産を終了していましたが、マツダ株式会社の初代ロードスターのレストアサービス向けおよび市販用に復刻したものです。

その後、ブリヂストンのとある事業所で車の構造の社員研修用に黄色い初代ロードスターを所有していることが判明。新車当時および復刻タイヤ開発の両方にブリヂストンのテストドライバーとして携わった池田孝弘は、「是非テストドライバーの訓練用に欲しい!」と考え、車をプルービンググラウンド(テストコース)で引き取り、再び走らせるためにプチレストアを始めました。

池田と同じく初代ロードスターおよび復刻タイヤの開発に携わったマツダの笠原哲さんにこの黄色い初代ロードスターの話をしたところ、笠原さんにも車の足回りの調整などのサポートを買って出ていただきました。もちろんタイヤはブリヂストンの復刻版SF325です。

この車のプチレストアが終わったところで、「記念に集まって話をしよう」ということで実現したのが今回の企画です。初代ロードスターの新車開発およびレストアサービス開始の背景には、いつまでも車を愛するオーナーの声や開発に携わったマツダとブリヂストン両社のエンジニアたちの想い、ものづくりへの情熱がありました。

「当時、私たちはライトウェイトスポーツカーに装着するなら絶対にこのタイヤパタン(溝の模様)にしたいという理想がありました。ですからタイヤメーカー各社さんに我々の想いを伝え、ロードスターのための新たなタイヤ開発をお願いしたのです」と、当時を振り返るのは初代ロードスターの足回りの開発主担当を務めたマツダの安藤文隆さん。「ブリヂストンさんにはほとんど時間がないなかで、このタイヤパタンで軽快な操縦性を持ち、なおかつ軽いタイヤを開発してくださいと無理をお願いした記憶があります」。

初代ロードスターは量産の決定から販売までわずか1年半という異例のスピードで開発されたことは今も語り継がれる有名な話。その車体開発の裏では、タイヤ開発も同じように短期間で進めなくてはなりませんでした。ブリヂストンはタイヤ開発を依頼された1987年の秋からおよそ1年でタイヤを完成させ、1988年の冬には試作車用に納入。その開発スピードの速さによって、"人馬一体"を具現化させた初代ロードスターの足回りの開発にも大きく貢献しました。そして1989年には量産車への装着を実現させています。

「当時、先輩がこのタイヤ開発の主担当で、私もチームの一員として開発に参加していました。タイヤのトレッドパタンは、通常タイヤメーカーがデザインするのですが、このタイヤについてはマツダさんの強い想いがあり、マツダさんのほうでデザインの原案をつくられました。我々はいただいたデザイン案を元に図面を起こしました。私は先輩の仕事を横で見ていましたが現在のようにコンピューターを使って2次元の図面から3次元のタイヤにすることはまだできませんでしたから、タイヤのカタチになるまでかなり苦労していた印象があります。それでも経験と勘を駆使して一発勝負でトレッドパタン設計を完成させた先輩の職人技には本当に感銘を受けましたね。」と当時のタイヤ設計に携わったブリヂストンの牧野純は語ります。

こうして自動車メーカーとタイヤメーカー、それぞれの開発者のこだわりとものづくりへの情熱が化学反応を起こし、異例ともいえるスピードでライトウェイトスポーツカーにふさわしい性能とデザインを併せ持つタイヤSF325が完成しました。「本当に難しいお願いだったと思いますが、デザイン案のイメージに非常に近いタイヤに仕上げていただきました」と安藤さん。またマツダのエンジニアで、現在すべてのマツダ車の開発において”人馬一体”の乗り味を最終決定する立場にある虫谷泰典さんも、当時新車で購入した初代ロードスターを今も所有する一人です。「当時、ブリヂストンさんを含め3メーカーさんのタイヤが新車に採用されていましたが、購入した際にどのタイヤが装着されているか楽しみにしていたことを覚えています」と思い出のエピソードを語ってくれました。

(写真左から虫谷さん、池田、笠原さん、牧野、安藤さん、本田)

初代ロードスターに装着されたSF325は、当時を知る開発者やオーナーにとって、このモデルを語るうえで決して欠かすことのできない重要なアイテムのひとつとなりました。30年という年月を経ても今なお愛され続ける初代ロードスターのレストアプロジェクトが決まると、当然のごとくSF325の復刻を望む声も大きくなっていったのです。

(後編へ続く)

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