製造業の現場では、業務の効率化や稼働率の向上、人手不足への対応として産業用/協働ロボットを導入する企業も多くなりました。産業用ロボット/協働ロボットと接続し、人間の手に代わって多くの作業を担うのがロボットハンドです。ロボットハンドには多くの種類があり、自社製品や工程に応じた適切なものを選定することが求められます。
今回の記事では、ロボットハンドの概要や種類に加えて、性能を決定する要素、ロボットハンドの選定のポイントや活用事例を解説します。
株式会社ブリヂストンでは強さと柔らかさを兼ね備えたゴム人工筋肉「ラバーアクチュエーター」によって、ヒトの手のように多様なものを器用に掴むソフトロボットハンド「TETOTE」を開発しました。
「柔らかなモノをそっとつかむ」「複数のモノを持つ」「多種多様なモノをつかむ」を可能にしたことで、「つかめない」が原因で進まなかったピースピッキングの自動化を実現します。
ピースピッキングでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。
ロボットハンドとは、おもに製造や物流の現場において人間の手の代わりとなるロボット部品のことです。エンドエフェクタまたはグリッパーとも呼ばれています。一般的に、産業用ロボットの一種であるロボットアーム(マニピュレータ)の先端に取り付けて、人間の手のような動きをするのが特徴です。
ロボットハンドはつかむ、回すなどのハンドリング操作を得意とし、動作はプログラムで制御されています。またロボットハンドによって指の本数やジョイント数の設計が異なり、取り扱う製品(ワーク)や作業内容に応じています。
作業に応じて異なるロボットハンドに付け替えることも可能です。
ロボットハンドはワークの取り扱い方によって「把持型」「吸着型」「ラバーアクチュエーター型」「特化型」の4種類に分かれます。さらに駆動方法やワークを吸着するしくみによっても細分化されます。
ロボットハンドの種類ごとの特徴を解説します。
把持型ロボットハンドとは、複数の指を持ち人間の手のような形状をしたロボットハンドのことです。一般的に2~4本の指を持ち、多くの指を持つ把持型ロボットハンドは、多指ハンドとも呼ばれています。
比較的軽いものや小さいもの、狭所作業は2本指タイプ、大きなものや複雑な形状のもの、把持したときに安定感が必要な場合は3~4本の多指タイプが選ばれます。多指タイプは強力な握力があり、つかんだワークを安定して正確に掴むことも可能です。
把持型ロボットハンドは、駆動方法によってさらに電動型ロボットハンド、空気圧型ロボットハンドの2種類に分けられます。
電動機構で動く把持型のロボットハンドです。電動グリッパーとも呼ばれています。指の本数、全体の大きさ、指の開く幅に応じて、さまざまな種類のものがあります。
ワークをつかむ位置を連続的に設定可能です。サイズや向きが異なったワークをひとつのロボットハンドで取り扱うこともできます。空気圧型のようにエア供給用のホースやコンプレッサが不要のため、接続構成がシンプルなのも特徴です。
近年では不定形または壊れやすいワークもやさしく包み込むようにつかめる、柔らかい素材と組み合わせた電動型ロボットハンドも誕生しています。
エア駆動によって駆動する把持型ロボットハンドです。エアグリッパーとも呼ばれています。
コントローラ不要で接続できるため、導入初期の設定をスムーズに行えるのが特徴です。電動型ロボットハンドと同じく空気圧型ロボットハンドも多くのバリエーションの製品が展開されているため、作業内容やつかむワークに応じた製品を見つけやすいでしょう。
電動型ロボットハンドと比べると機構が単純なため、小型かつ軽量化されたモデルも多いです。また軽量であることで可搬重量を活かして、重いワークの取り扱いも得意としています。
吸着型ロボットハンドとは、ロボットハンドの先端部分にワークを吸着させるタイプのロボットハンドです。把持型のようにワークをつかむ際に指を動かす必要がないため、ワークをつかんだり離したりする速度が速いという特徴があります。ただし使用回数が増えると吸着力が低下してしまうことがあり、把持型よりもメンテナンスの頻度が高くなる可能性があります。
吸着型ロボットハンドは、吸着する仕組みによってさらに真空型ロボットハンドと磁力型ロボットハンドに分類できます。
真空発生器によって真空をつくり、真空パッドにワークを吸着するロボットハンドです。
吸着型ロボットハンドやエアグリッパー、サクションカップとも呼ばれています。対象物の表面に水や油が付着していたり、穴が開いていたり、多孔質の表面でなければ、ワークの材質を問わず吸着可能です。
ワークの吸着とリリースが速い利点を活かして、比較的軽いワークのピック&プレース(拾い上げおよび特定の位置までの搬送)や、パレタイジング(荷積み荷降ろし)などで特に多く用いられています。より大きく重いワークを支えるために、吸着口を増やした真空型ロボットハンドも活用されています。
電磁石を用いて、電流を流し磁力によってワークを吸着するロボットハンドです。
マグネットグリッパーとも呼ばれています。ワークの吸着は、電磁石の入・切でコントロールされています。
磁力を利用してワークを吸着する仕組みのため、磁力型ロボットハンドの適用対象は磁力に反応する金属をはじめとしたワークに限定されます。たとえば鉄系の素材(鉄やニッケルコバルト)やフェライト系、マルテンサイト系ステンレスは吸着可能ですが、非鉄金属(アルミや銅)やオーステナイト系ステンレスのワークは磁力が効かないため吸着できません。
磁力に反応する材質のワークなら、真空型の苦手な穴や凹凸などがある複雑な形状のワークにも適用可能です。比較的重たいワークの把持も得意としています。ロボットハンド自体は、コンパクトなものが多いです。
指の部分にゴムの人工筋肉を入れたロボットハンドです。一般的に、ソフトロボットハンドと言われています。把持型や磁力型に比べて、人の手のような器用さや柔軟性を持っており、把持型、吸着型に次ぐ第3のロボットハンドとして位置付けられています。
ソフトロボットハンドはワークの形状や硬さに合わせて馴染むように掴むことが可能です。従って、形状や重さなど多様なワークを汎用的に掴むことに向いており、また、食品や医薬品など繊細さが求められるワークにも適しています。
作業内容や目的に応じて、先端に工具やカメラなどをそのまま装着した以下のような特化型のロボットハンドもあります。
・カメラでの撮影と画像解析による、自動検査用ロボットハンド
・ねじ締め用ドライバを取り付けた、組み立て作業用ロボットハンド
・塗料を吐出するノズルを取り付けた、塗装作業用ロボットハンド
・溶接機器を取り付けた、溶接用ロボットハンド など
近年では袋の中に粉体などを詰めて真空発生器などで袋の中の空気を抜くと固く締まる「ジャミング効果」を利用し、さまざまな形状の対象物の把持が可能なユニバーサルグリップの開発、製品化も進められています。
ロボットハンドの性能を決める要素は、ロボットハンドそのものだけでなくワークとの相性も重要です。
ロボットハンドの性能を決める要素を以下にまとめました。
要素 |
内容 |
ワークの重量 |
ロボットハンドが保持できるワークの重量 |
ワークの形状・サイズ |
ロボットハンドが対応できるワークの形状・サイズ |
ワークの柔軟性 |
ロボットハンドが対応できるワークの柔軟性 |
ワークの材質 |
ロボットハンドが対応できるワークの材質 |
ロボットハンドの保守性 |
ロボットハンドのメンテナンス性 |
ロボットハンドの開閉速度 |
ロボットハンドの開閉速度 |
次章では、これらを踏まえてロボットハンドの選定ポイントを紹介します。
ロボットハンドは取り扱うワークや作業工程に応じたものを選ぶことが重要です。
ここでは前述のロボットハンドの性能を決めるポイントを踏まえながら、ロボットハンドの選定ポイントを解説します。
ワークをロボットハンドで取り扱えるかどうかがまずは重要です。
取り扱うワークの適合性を見るために、ロボットハンドの基本的な性能をチェックしましょう。
取り扱うワークに適した把持力、吸着力を持つロボットハンドを選ぶことが重要です。
たとえば重いワークを取り扱う場合、接続するロボットアームの可搬重量はもちろん、ロボットハンドの把持力および吸着力も大きく関わります。
また、ワークの材質や形状、表面の状態によっては対応できないロボットハンドもあり、確認が必要です。特に共通のロボットハンドで複数のワークを取り扱う場合には、確認漏れがないよう注意しましょう。
多様なワークを取り扱う場合には、ロボットハンドの汎用性も重要です。汎用性が高いロボットハンドなら、ロボットハンドの付け替えをせず、効率良くさまざまなワークの取り扱いに活用できます。
ロボットハンドの材質にも注目してみましょう。たとえば食品や医薬品、溶接物などやわらかい、またはデリケートな材質のワークを扱う場合には、ソフトロボットハンドのようなワークを傷付けないロボットハンドの材質を選ぶ必要があります。
ブリヂストンのソフトロボットは柔軟で力強い「ゴム人工筋肉」を指そのものに適用することで、"いい感じ"につかむことを実現しています。
次に、生産性や品質にも大きく関わるロボットハンドの質をチェックします。
ロボットハンドの指の位置、把持力、吸着力などを細かく調整できるかどうかを確認しましょう。
たとえばワークが不定形、または作業によって位置がずれている場合には、作業内容に合わせて、高い精度や再現性でロボットハンドを制御する必要になることもあります。高い精度での制御の調整ができるロボットハンドなら、ワークを傷つけてしまうリスクや工程を止めてしまうリスクを最小限に留めて作業を続行できるでしょう。
ロボットハンドの材質によってはつかめない、ワークを壊してしまう、といったことがあります。たとえばワークが金属製なら磁力型ロボットハンドで吸着できますが、非金属や磁力に反応しない材質のワークならほかのロボットハンドが選択肢となるでしょう。
ワークの曲面や凹凸、穴の有無などによって対応可能なロボットハンドの種類が異なるため、ワークの形状も選定ポイントになります。重量のあるものならしっかり把持する力、食品などのデリケートなものを取り扱うときには、やさしく包み込むような繊細さがあるかなども確認しましょう。
工程で求められる効率性に適した把持速度を持つロボットハンドを選ぶことも重要です。
ライン速度よりもロボットハンドの把持速度が遅いと、ライン全体の生産力が低下してしまいます。生産ラインのスピードに応じた把持速度を発揮するロボットハンドを選びましょう。
常に稼動しているロボットハンドには大きな負荷がかかるため、メンテナンス性にも注意が必要です。
ロボットハンドが故障すると生産ラインにも悪影響が出てしまいます。
たとえばエアによって吸着するハンドは、フィルターの詰まりやパッドの摩耗、磁力によって吸着するハンドは経年劣化による磁力の低下などが発生します。
ロボットハンドに必要なメンテナンスの頻度が高いとその分コストも発生するため、メンテナンス性もかならず確認するようにしましょう。
最後にロボットハンドの周辺環境を考慮して、ロボットハンドのサイズ、可動範囲、動力源の有無等を選定しましょう。
以下のようなトラブルを防ぐために、設置環境に合わせたロボットハンドを選ぶことが重要です。
・ワークの入った箱にロボットハンドが干渉する
・可動範囲が合わずワークをしっかりつかめない
・箱の隅にあるワークをピッキングできない
・安全柵に接触して止まってしまう など
・ロボットハンドが必要とするエアー圧力レベルを既存設備では賄えない
ここではロボットハンドの産業別の活用事例を解説します。
(1)物流業界での事例
物流ではワークの位置や向きが一定ではない、バラ積みなどのワークを取り扱う場合もあります。ロボットハンドが一定の方向や位置でのみ把持や吸着を行う場合は、その位置に合わせるために、前工程でワークの整列などを行う必要があります。
さまざまなワークの位置や向きに応じて最適なつかみ方ができるロボットハンドをビジョンシステム等と組み合わせて制御すれば、前工程での配置・整列は不要になり、また、多様な商品を扱うピースピッキング工程も自動化できます。そうすることで生産性向上や作業者の負荷軽減にもつながるでしょう。
【参考動画】
以下の動画は、ブリヂストンスポーツ株式会社の物流倉庫で行っているピースピッキング実証実験の様子です。
さまざまな形状・重さの商品をPick & Placeすることはもちろん、段ボール箱の所定の位置への移動や、伝票を箱の中に入れる作業などの付帯動作の自動化も担っています。
【ブリヂストン ソフトロボットハンド】物流現場でのピースピッキング実証実験の様子を公開 (youtube.com)
(2)自動車産業をはじめとする製造業界での事例
自動車産業をはじめとする製造業界では、これまで分業して単純化した作業を産業用ロボットが担うことが主流でした。近年では、より多様な作業の自動化が求められており、従来人が作業していた作業の代替、または、人と横長びで同じ作業を一緒にする形での協働ロボットの導入が増えてきています。
また、平成25年に「産業用ロボットに係る労働安全衛生規則第150条の4」が一部緩和されたことも、協働ロボット導入の潮流の背景のひとつです。
従来人がやっていた作業をロボットが担うことがこれから更に増えていく中、ロボットハンドに対して求められる器用さ、汎用性のレベルも高まっていくことが想定されます。自動車部品など複雑な形状の部品が多くある製造業では、汎用的なロボットハンドは交換不要であるため生産性にも寄与します。
たとえば2023年度のグッドデザイン賞を受賞したブリヂストンのソフトロボットハンドは、ブリヂストンの持つゴムのテクノロジーによって作られたゴム人工筋肉を活用したロボットハンドです。ゴムの人工筋肉ならではの「強さ」と「柔らかさ」を兼ね備えることで、従来のロボットハンドでは難しかった複数のワークを持つ、多種多様なワークをつかめる、といった器用な人間の手のような動きも実現しています。
(3)食品や医薬品業界での事例
崩れやすい、壊れやすい、不定形といったデリケートなワークでは把持型ロボットハンドでは、割れたり崩れたりするリスクがあります。また、吸着型ロボットハンドではワークをうまく吸着できない、または跡が残ってしまうといった課題が発生することもあります。
そこでロボットハンドの材質や制御機構を見直すことで、近年では食品や医薬品といったデリケートな作業やワークにも対応できるようになりました。
ロボットハンドの概要や種類別の特徴、ロボットハンドの選定ポイントについて解説しました。
ロボットハンドはさまざまな種類があり、ロボットハンドを導入する工程やワーク、目的に応じた選定が重要です。
近年では技術の発達によって、これまでの課題に解決をもたらすロボットハンドも誕生しています。ぜひ目的に合ったロボットハンドを導入し、自社や製造過程における課題解決や業務効率化につなげましょう。
株式会社ブリヂストンでは強さと柔らかさを兼ね備えたゴム人工筋肉「ラバーアクチュエーター」によって、ヒトの手のように多様なものを器用に掴むソフトロボットハンド「TETOTE」を開発しました。
「柔らかなモノをそっとつかむ」「複数のモノを持つ」「多種多様なモノをつかむ」を可能にしたことで、「つかめない」が原因で進まなかったピースピッキングの自動化を実現します。
ピースピッキングでお悩みの方は、ぜひお気軽にご相談ください。