タイヤをはじめとするゴム素材の研究開発の知見を活かし、ブリヂストンでは「ラバーアクチュエーター」と呼ばれるゴム人工筋肉を用いたソフトロボットハンドを開発しています。このほど、2022年9月に開催された国際物流総合展に初出展し、多くの反響を得ました
今回は、ソフトロボットハンドの製品の特徴や展示の反響、今後の事業展望などについて、株式会社ブリヂストン ソフトロボティクス事業準備室の山口真広(写真左)・安井仁(写真右) 両名にインタビュー形式で伺いました。
――はじめに、ソフトロボティクス事業やラバーアクチュエーターについて教えてください。
弊社では2021年に公表した中期事業計画(2021-2023)の中で、ソフトロボティクス事業へのチャレンジを打ち出しました。ソフトロボティクスとは、生物の動きや柔軟さを取り入れたロボット技術やその研究分野のことであり、硬い素材のロボットでは不可能な繊細で柔軟な動きを実現します。
そのソフトロボティクス事業として研究開発に取り組んでいる技術が「ラバーアクチュエーター」です。
ラバーアクチュエーターは、ゴムチューブとそれを囲む高強度繊維のスリーブからなる人工筋肉であり、「軽くて力持ち」「柔らかい」「衝撃に強い」という特徴を有しています。この人工筋肉の特徴を生かし、「さまざまな形・重さのモノを器用に掴む」という付加価値を持つソフトロボットハンドを開発しました。ソフトロボットハンドは、ピースピッキング作業の自動化など、物流現場のさまざまな課題を解決するソリューションとして期待されています。
このソフトロボットハンドをはじめ、弊社では現在、新規の「探索事業」として、ゴム素材の研究開発で培った知見を活かしたソリューションの開発・提供に取り組んでいるところです。
ーーそのソフトロボットハンドを、2022年9月の国際物流総合展で披露したのですね。
もともと、ラバーアクチュエーターのソフトロボットハンド自体は、その半年前の3月に開催された「国際ロボット展(iREX2022)」でお披露目していました。こちらは、弊社としては単独ではないものの33年ぶりの出展でした。
その後、実際の活用シーンにより即した物流の展示会でも披露した方がいいのでは?ということになり、国際物流総合展への単独での初出展を決めました。
これを皮切りに、まずは物流業界に照準を合わせて、ビジネス化を進めていく意気込みでいます。
――今回の物流展で披露した製品には、どのような特徴があるのでしょうか?
製品の特徴として、物流倉庫でのピースピッキングに合わせた仕様にしています。具体的には、箱に入っている商品をつかみやすいよう、また箱の隙間を狙いやすいように指の幅などの配置を調整しました。eコマースで扱われる日用品の売れ筋商品を対象に試行錯誤し、それらに対応できる最適な仕様に仕上げた点がポイントです。
3月のロボット展で披露したソフトロボットハンドは、ボディから指先までが一体となったフルカバー型でしたが、今回展示したものはその改良版であり、指とボディを別カバーにしました。こうすることで、指のうちどれか1本が故障した場合、その1本だけを取り替えれば稼働できるため、運用しやすいものとなりました。
さらに、もともと製品の重量は約750gでしたが、約500gにまで軽量化も実現しています。
――展示で工夫された点はありましたか?また来場者の反応はどうでしたか?
出展ブースの工夫としては、ソフトロボティクス事業のビジョンを体現したコンセプトモデルと、先ほどご説明したコマーシャルモデルを分けて展示しました。コンセプトモデルはソフトロボットハンドの「つかむ」動作に加えて「ひらく」動作も可能であり、それぞれの指が独立して動きます。そのため、より幅広い用途への活用が期待されます。
また、あえて製品を説明するパネルを置かず、製品と動画のみを展示して、来場者の方々に新鮮な驚きを感じてもらえるよう工夫しました。
こうした工夫もあってか、多くの方々に興味深く展示をご覧いただくことができ、インパクトを残せたと思います。
――来場者は具体的にどのような点に興味を持ったのでしょうか?
1つは、ロボットハンドとしてはこれまでにない見た目と特徴を持っている点です。ロボットハンドは通常、ハンドの部分が硬いか、柔らかくても重い物を持てない製品が大半でした。しかし、弊社の製品はハンドが柔らかく、かつスマートな見た目でありながら2kgもの重量の物を持てるので、そのことに多くの方が驚かれていました。
また、今回展示したロボットハンドは、アセントロボティクス株式会社のAI画像認識技術との組み合わせにより、さまざまな商品が入っている箱から指定した商品を間違えずにつかむことができ、さらにどのような姿勢の商品でもピックアップできます。その様子をデモンストレーションとして披露したところ、非常に興味を持っていただけました。
弊社のソフトロボットハンドそのものの認知度も徐々に高まっており、ソフトロボットハンド目当てで来場された方や、具体的な料金を聞いてくださる方もおり、関心の高さを実感しました。
――出展後の反響はどうでしたか?
3月の国際ロボット展の後にも反響いただきましたが、今回はより多くの反響の声をいただいた実感があります。出展当日は3,000名ほどの方がブースに足を運んでくださり、その後お問い合わせや具体的な商談の機会につながりました。
これら展示会を通じて、物流やロボット製品専門のニュースサイト※にも取り上げていただき、認知度の向上につながったと感じています。
※ロボットダイジェスト - [注目製品PickUp! vol.44]ゴム人工筋肉 で柔軟性と強さを両立/ブリヂストン「ソフトロボットハンド」 (2022年8月3日配信) (https://www.robot-digest.com/newarticle/?id=1659342529-757806)
※物流ニュース LNEWS - 「物流の未来が勢ぞろい/国際物流総合展2022過去最大規模で開催」(2022年9月13日配信)(https://www.lnews.jp/2022/09/o0913501.html)
※ロボットダイジェスト - [進化する物流vol.7]最先端が一堂に、国際物流総合展リポート【その4】(2022年9月29日配信)(https://www.robot-digest.com/contents/?id=1663824571-821386&dp=4)
――最後に、今後の展望やメッセージがありましたらお聞かせください。
ソフトロボットハンドは2022年11月からレンタル先行予約の受付を開始します。これを皮切りに、今後はさらに実用化を進めていき、具体的にさまざまな場面でご活用いただけるようになることを目指していきます。
物流業界は人手不足が深刻化していることもあり、多くの工程で自動化・無人化の技術が進んでいますが、繊細な作業が求められるピースピッキング業務は、まだまだ人が行う作業として残っています。その課題を解決できるようにご支援するとともに、人とロボットが安心して協働できるような製品をこれからも作っていきたいです。
<参考動画>
国際物流総合展でお披露目したデモの様子をこちらで公開しております。
・ソフトロボットハンド × AI画像認識技術 ~トータルピッキング編 :リンクはこちら
・ソフトロボットハンド ~棚から器用にピック編 :リンクはこちら