近年、IoTなどの最新技術を用いて物流の効率化を図る「スマートロジスティクス」が注目されています。物流業界の課題を解決する可能性を秘めたスマートロジスティクスが注目される背景には、以下の2つの要因があります。
1つ目の要因は人手不足の深刻化です。
周知のとおり、日本では少子高齢化がかつてないスピードで進行しています。労働の主な担い手である20~64歳人口の割合は、2022年では54%ですが、約40年後の2065年には48%にまで減少すると予測されています。
このように少子高齢化が進行する中、どの業界も人手不足が課題となっており、物流業界も例外ではありません。
物流関連の有効求人倍率をみると、ドライバーは2.06倍であり、倉庫内の人手に目を向けても、積卸作業員が5.45倍、こん包作業員が2.27倍、ピッキング作業員が1.31倍となっており、多くの職種で人手不足の傾向がみられます。
物流の諸機能を統合、高度化する「ロジスティクス」の需要が急増する中、少子高齢化の進行に伴い人手不足に拍車がかかっていると言えます。
2つ目の要因はe-コマースの増加です。
先述のように、物流業務に従事する人手は減少する可能性が高い一方、e-コマースの需要は増加傾向にあります。2020年においては、新型コロナウイルスの感染拡大で旅行関連の取引などが減少したこともあり、EC市場全体の規模は横ばいでしたが、物販系のECは堅調に伸びています。
具体的な数字をみると、2019年に10兆515億円だった物販系分野のEC市場規模は、2020年には12兆2,333億円と、20%以上も伸長しました。
EC市場は今後も活性化すると予想され、それに伴い物流業界の仕事量も増加するため、人手不足がさらに加速すると考えられます。
こうした物流を取り巻く課題を解決するためには、スマートロジスティクスの導入が求められます。
スマートロジスティクスとは、IoTやAI技術を活用することで、調達・生産・販売・回収に至る物流の過程を一元化、効率化しようという概念のことです。
具体的な技術としては、AIを活用した配送ルートの最適化や、無人搬送ロボットの活用、フォークリフトの自動運転化などがあります。
スマートロジスティクスを導入することで、ピッキングや配送など作業工程の効率化や、貨物セキュリティーの向上、人的ミスの削減、情報分析の高度化など、さまざまな効果が期待でき、人手不足の解消に貢献します。
スマートロジスティクスには多様な要素がありますが、今回は倉庫内業務における課題の1つである、ピッキング業務についてご紹介します。
倉庫内におけるピッキング業務には、注文に対してパレット単位でピッキングする「パレットピッキング」、パレットに載っている段ボールをピッキングする「ケースピッキング」、そして最小単位の物品を摘み取る「ピースピッキング」の3種類があります。
パレットピッキングやケースピッキングは、ピッキングする対象が定型化された形であるため自動化が進んでいますが、ピースピッキングはピッキング業務における最小単位のため、人の手で行われていることが少なくありません。
ピースピッキングの自動化・ロボット化にはどのような課題があるのか、以下でみていきます。
多頻度少量での配送が普及している現在、ピースピッキングの自動化・ロボット化が求められていますが、そこで立ちはだかる課題として以下の3つがあります。
ピースピッキングでは、ケースやパレットのように形が定まった硬いモノではなく、アパレル商品のように柔らかく変形しやすいモノや、壊れやすいものをピッキングすることがよくあります。しかし、こうした性質のモノを繊細に掴むための技術の普及や、ロボットの整備はそれほど進んでいないのが現状です。
ピッキングの対象が一定の形状をしたモノであれば、画像を認識し、一定の動作でピッキングできます。しかし、野菜のような食材をはじめ、形が一定でないモノを掴む場合、モノによって掴む場所や掴む強さを変える必要があり、そうした調整作業が難しい課題があります。
商品を一つずつ掴み取る現行のロボットによるピースピッキングでは、処理能力をなかなか向上させにくい点も課題です。ロボットアームの作業速度を上げる事も可能ですが、例えば、いくつかまとめてピッキングを行うことで劇的に作業効率を高められます。
前述のようなピースピッキングの課題に対しては、ソフトロボティクスを活用することで解消できる可能性があります。
ソフトロボティクスとは、生物の動きや柔軟さを取り入れたロボット技術やその研究分野のことです。従来のロボットは硬い素材でできているのが一般的ですが、ソフトロボティクスでは柔らかい素材を用い、繊細で柔軟性のある動きを実現します。
素材や動きの硬い通常のロボットでは、柔らかいモノや割れやすいモノを扱うと壊してしまいやすく、掴む対象の形状に違いがあるとうまく対応できません。しかし、柔軟な構造のソフトロボティクスを活用することで、人の手で行うような細かい作業が可能となり、さまざまな種類のピッキングを行うことが期待できます。
ブリヂストンでは現在、「"いい感じ"にモノをつかむソフトロボットハンド」を開発しています。
ゴム素材の研究開発の知見を活かし、素材にはゴムチューブとそれを囲む高強度繊維のスリーブからなるゴム人工筋肉「ラバーアクチェーター」を採用。軽量な素材ながら、30kgの俵を持ち上げることができるなど、一定の重さのモノへの対応が可能です。
ゴム人工筋肉からなる指部分はゴムがベースになっているため柔らかく、繊細かつダイナミックな動きを実現。繊細なモノを掴む際のモノなじみが良く、確実に把持できます。
また、人にぶつかっても怪我をしにくく、大きな事故を防げます。外部からの衝撃や水にも強く、壊れにくいため、さまざまな環境で活用可能です。
ブリヂストンのソフトロボティクスにご関心の方は、より詳細な活用方法を資料にて紹介しておりますので、こちらもあわせて御覧ください。