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タイヤ開発技術を活用。“バリアレス縁石”で目指す、バス停のバリアフリー化

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日常を支える公共交通機関のひとつとして子どもから高齢者まで幅広く利用され、重要な役割を果たしているバス。ノンステップバスなどバスのバリアフリー化が進む一方、バス乗降口と歩道部に隔たりがあるとベビーカーや車いす利用者などが一度道路へ降り、道路と乗降口、道路と歩道部との段差を乗り越えてなくてはならないケースがあり、バス乗降時の課題となっています。
そんな不便さを解消するべく、ブリヂストンがタイヤ開発で蓄えた知見を活用して開発した「バリアレス縁石」。開発を担当したソリューション技術企画部の山崎慎一郎(以下、「山崎」)と信長祐輔(以下、「信長」)に、開発の経緯や直面した困難、今後について尋ねてみました。

ソリューション技術企画部の信長祐輔、山崎慎一郎
(左から)ソリューション技術企画部の信長祐輔、山崎慎一郎

「バリアレス縁石」開発のきっかけは、現状の道路システムへの課題解決から

この「バリアレス縁石」、側面を特殊な形状に加工し、バスの乗降口と停留所の隙間を小さくすることで「正着性」を向上させ、乗降のバリアフリー化に貢献するというもの。

山崎:「この研究は、ブリヂストンと都市交通の第一人者である横浜国立大学の中村文彦教授そして公益社団法人 日本交通計画協会との共同研究になります。今後の公共交通、特に、路線バスやBRT(Bus Rapid Transit:バス高速輸送システム)といったバス輸送では、乗降時のバリアフリー化が大きな課題のひとつです。もっとバス停付近の歩道に隙間なく停車できれば、誰もが乗り降りしやすくなるだけでなく、乗降に伴う乗務員の介助負担も軽減され、定時運行にも貢献できるはず。中村教授との共同研究から半年を経て、タイヤだけではなくバス発着時の縁石も改善する必要性を感じていました。その事を踏まえ注目したのが、海外の一部地域において導入され始めていた縁石にタイヤを一部接触させながらバスを停車させるバリアレス縁石の技術でした」

「バリアレス縁石」開発のきっかけは、現状の道路システムへの課題解決から

ブリヂストンが開発したバリアレス縁石の路肩形状
※車両接触回避形状......2段の段差をつけ、車体と縁石の接触を回避
※路肩スロープ......わずかな傾斜をつけたことで、ハンドル操作をすることなく車体を縁石に寄せることが可能
※縁石底ラウンド形状......丸みを帯びた形状が縁石に接触する際のタイヤへのダメージを低減

「バリアレス縁石」開発のきっかけは、現状の道路システムへの課題解決から
バリアレス縁石での車いす乗降状態。段差はわずか33mmに

バス乗降口と縁石の間の距離や段差がないほど乗降はスムーズに

一方日本では、縁石にタイヤを擦るという考え方がありませんでした。そこで、日本での導入を検討するため、中村教授が研究用に設置していた横浜国立大学キャンパス内の外国製の縁石を用いて検証実験を行なうことに。すると、タイヤが縁石に当たってしまうことによるダメージやバスの車体が縁石に接触してしまう、といった課題が判明。そのため、タイヤだけでなく、日本の使用環境に合った縁石開発が急務だという結論に至ります。

ブリヂストンと縁石。意外に思えるこの組み合わせは、ブリヂストンのCSRの考え方"Our Way to Serve"を体現する、顧客価値・社会価値提供の一例でもあります。

山崎:「いまだから言えますが、この開発に携わるまで、縁石について考えたことはありませんでした(笑)。ただこの縁石が実現することにより世の中が格段に良くなることがわかる。新しい分野にチャレンジできたことは技術者冥利に尽きますね」

タイヤ開発を得意領域とする山崎も、縁石を開発するのは初めての経験です。
タイヤ開発を得意領域とする山崎も、縁石を開発するのは初めての経験です。

山崎:「バスのドライバーにとって、縁石にピッタリ寄せるのは難しいということを知りました。縁石に当ててはいけないという長年の慣習がドライバーにはあります。経験豊富なベテランドライバーほど(その感覚)が身体に染み付いており、"縁石に接触するほど車を寄せる"ことに多少なりとも心理的抵抗が生じてしまう。逆に経験の浅いドライバーは縁石にタイヤを当てることも怖がりません。そこで、ドライバーの技量に応じて発生する、タイヤと縁石の間の正着距離のバラつきや接触時の衝撃を低減させる必要がありました。もうひとつ、タイヤのサイド面は衝撃に弱いため、縁石接触時のタイヤダメージを低減しなければならないこともわかりました。この2点が、大きな課題となりました」

バスのタイヤが停留所の縁石にピタリと寄せられる「正着縁石」
バスのタイヤが停留所の縁石にピタリと寄せられる「正着縁石」

これらふたつの課題をクリアすべく、次世代に向けた「正着縁石」を開発していくことになった研究チーム。ドライバーの技量や感覚に依存せず縁石への進入角度を制御する手法として、ハンドル操作をすることなく自然に縁石にアプローチできる「路肩スロープ」を考案したり、縁石接触時のタイヤへの衝撃を緩和する「縁石底ラウンド形状」を採用したり、さまざまな角度からアプローチを求めていきます。

山崎:「開発した縁石の最大の特徴は、縁石と地面に接する部分が少し丸みを帯びた形になっていること。縁石に車体をどれだけ寄せるかというのもポイントなのですが、タイヤが縁石に接触した際、丸みを帯びた形状がダメージを低減してくれるので、タイヤが接触した時のバス車内への衝撃が小さく、タイヤへのダメージも小さいんです」

日本中のバス停の縁石をバリアフリーに。世の中をもっと暮らしやすくしたい

2019年6月10日。縁石底ラウンド形状を取り入れた「バリアレス縁石」は、岡山県岡山市の「岡山市後楽園前」バス停に導入され、すでに運用が始まっています。

信長:「私自身も乗ってみましたが、本当に乗降がスムーズにできたので驚きました。バリアフリー化はもちろん、スムーズな乗降の実現によってバスの停車時間を短縮させることにもつながり、結果として停車時間を含めた平均速度の向上にもなるそうです」

日本中のバス停の縁石をバリアフリーに。世の中をもっと暮らしやすくしたい

「バスを安定的に縁石に寄せる」「タイヤと縁石の接触時の影響を緩和する」という課題を解決し、バス乗降のバリアフリー化に貢献する「バリアレス縁石」。今回実用化した縁石は、大型・小型のバスがともに正着性向上を達成できる汎用性の高い形状となっています。

しかしながら、もちろんこれで完成というわけではありません。より良い製品になるよう、さらなる改良は続きます。

信長:「縁石の改良と並行して肝心のタイヤに対しても、タイヤサイド部が縁石に接触したときのことを考慮したタイヤを開発しております。タイヤサイド部が縁石に接触することによりサイド部が地面と接するトレッド部よりも早く摩耗してしまうと、タイヤの寿命が短くなってしまいます。それを防ぐためにサイドゴムの貼り替えを可能にする技術を検討中です。これは当社のリトレッドタイヤの技術(注釈1)や、ゴムを接着する技術を応用しています」

注釈1
一次寿命が終了したタイヤのトレッドゴム(路面と接する部分のゴム)の表面を決められた寸度に削り、その上に新しいゴムを貼付け、リユースするもの。台タイヤを再利用できるので省資源に貢献する。(本文に戻る)

交換可能なサイドゴムの搭載箇所
交換可能なサイドゴムの搭載箇所

山崎:「目指しているのは、バスを利用する誰にとっても快適であること。タイヤメーカーならではの視点を技術開発に活かし、世の中全体をもっと暮らしやすく変えていきたい」

信長:「そう遠くない将来、『あるのが当たり前』という感覚になるまで、日本全国に広めていきたいです。私たちの役割であり、モチベーションです」

バスのバリアフリー化は、より良い社会の実現に向けて必要不可欠です。近い将来このバリアレス縁石は、公共交通のバリアフリー化促進にますます貢献することが期待されています。

「バス乗降のバリアフリー化に貢献するバス停バリアレス縁石」
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