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パラアスリート歌絵巻

「鷹の小林幸平」への十の問い

「車いすなんて恥ずかしい」
そう思っていた彼を変えたのは、パラスポーツとの出合いだった。
凄まじいスピードや飛び跳ねるような動きに魅せられて始めた車いすバスケットボール。
そして2015年からは妻・悦子さんの影響で始めたパラバドミントン。
素早いチェアワークと的確なコントロールで自らの人生を明るく切り拓いてきた小林幸平選手へ、十の問いを投げかけた。

一、競技用車いすに乗って鷹のように風を切る時、どんなことを感じますか?

競技用車いすで速く走って、それまで取れなかったシャトルにギリギリ追いついて返せた時は快感です。もともと自分はパラバドミントンを始める前の36歳まで車いすバスケットボールをしていたので、競技用車いすの扱いには慣れていました。それでもラケットを持ったまま落ちてくるシャトルを追うのは、バスケットの時とは少し感覚が違って思うように動けなかった。そういうもどかしさがあって、もっと早く動けるようになりたいという思いは強い。その気持ちは今でもずっと変わりません。

二、鷹が獲物を狙うかのような、素早く的確なコントロール技術を維持するために大切なことはなんですか?

自分が思った通りのショットができるようになるまで妥協しないことです。少しでもイメージとズレたら自分自身に「なんで?」と問いかけてその理由を考え、自分なりの答えをもって次のショットにつなげていきます。たとえば競技経験を重ねてフォームが固まると、ラケットの面の角度が打球のコントロールを左右するようになる。その面の角度を調節するために相手の打球を予測し早く動くなど、軌道修正を繰り返しています。

今までやってこれたのは、一緒に頑張ってくれる妻やサポートしてくれる職場の仲間のおかげ

コントロール技術に磨きをかける小林選手

三、一方、プライベートで鷹のように素早く的確に行うのが得意なことはありますか?

スーパーの特売日に安くて美味しそうな食材を見つけたら、逃さず買い物カゴに入れていきますね。コスパがいいものを探すのはもともと得意なんです。最近は近所のスーパーに土曜日の午前中、開店と同時に入っていきます。朝一はお得でいい品物がいっぱい残っている。そこで一、二週間分の食材を買い溜めして家に帰り、妻と一緒にそれを小分けにして冷凍庫に詰めるというのが習慣になっています。

四、鷹のような力強さで競技と仕事、プライベートを両立させてきた秘訣を教えてください。

正直、両立できていなかったと思います。競技をしているとプライベートはほぼ無く、時間がある時は常に体育館にいました。そんな中でも今までやってこれたのは、一緒に頑張ってくれる妻やサポートしてくれる職場の仲間のおかげです。妻もパラバドミントン選手なので家事は役割分担。自分が犬の散歩に行って、立つことができる妻が洗濯物を干して。お互いにできることや得意なことを生活につなげていますね。

いい生き方は水のように生きるということ

仕事も職場の仲間と連携して

五、「鷹揚自若(おうようじじゃく)=落ち着いていて何事にも動揺しない様子」という言葉がありますが、小林選手が壁にぶつかったときに、心の平静を保つために心がけていることはなんですか?

自分は心がざわついてばかりいます。緊張をコントロールするのも苦手ですが、そういう時によく思い出す好きな言葉が「上善水の如し(じょうぜんみずのごとし)」。いい生き方は水のように生きるということ。水は流れに逆らわず高い所から低い所に流れて落ち着き、いろんな器に合わせて柔軟に形を変えていくという意味です。心がざわついたり緊張したりする時にこの言葉を思い出して水のイメージを持つと心が落ち着き、次の行動を考えやすくなりますね。

六、獲物を逃さない鋭い「目」が鷹の特徴ですが、試合中、一番鋭い視線を注ぐのはどこですか?

シャトルの先にあるコルクの頭部分を見るようにしています。バドミントンでは、ラケット面の角度によってシャトルの飛ぶ方向が変わるから、面を見るという人も多い。でも自分はそのやり方だといつも騙されるので、相手が打った時のシャトルの回転や向きをピンポイントで見ます。また自分が打つ時にも当てたい角度になるか、ラケット面ではなくシャトルの方に目をやっています。

鷹にはまだまだ至らないと思いますが、その名に恥じないように取り組んでいきたい

シャトルに視線を注ぐ様子

七、プライベートでつい鷹の「目」のような熱い視線を注ぎ続けてしまう対象・趣味はありますか。

食品の栄養成分表示はついつい見てしまいます。特に炭水化物やタンパク質のトータルバランス、ビタミンとミネラルの含有量は気になる。コンビニで買い物する時はそこだけチェックしますね。

八、「能ある鷹は爪を隠す」ということわざのように、周りに知られていない密かな特技はありますか?

オセロが得意です。遠征先の宿泊施設にオセロがあるとやるのですが、あまり負けません。それは、ほとんどの人が知らないオセロの定石を知っているからだと思います。競技でもオセロでも定石やパターンを見つけたり、それが見つからない時にどうしたらいいかと突き詰めたりするのが好きなんだと思います。

九、ご自身が「鷹の小林幸平」と呼ばれることに対してどう感じますか?

鷹にはまだまだ至らないと思いますが、その名に恥じないように取り組んでいきたいと思います。

十、鷹のように大きな空を羽ばたき続けるため、今後の目標を教えてください。

これまで自分がやってもらったように、障がい者や同じような境遇で頑張っている人を応援したり支えたりできる人間になりたいと思っています。自分が以前通っていた障害者職業能力開発高校でも障害を持ちながら仕事をしている仲間はいっぱいいましたし、障がい者が働く機会は増えていると感じます。しかしまだまだ雇用には制限があり厳しさを感じるのも事実。その現状を少しでも変えていくためにも、まずは自分がブリヂストンで活躍することが大事だと思いますし、できることを精一杯頑張っていきたいですね。

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