彼女たちの今、そして未来へと描くロードマップ
チームブリヂストン・アスリート・アンバサダーの宮里藍さんと渡邉彩香選手、そしてチームブリヂストン・アスリートの松田鈴英選手の3人の対談が実現。それぞれの1年を振り返りながら語る、東京2020オリンピックへの想いやその先の未来への夢とは。互いへのアドバイスや意見は、ゴルフという同じ競技で戦ってきた者同士だからこその言葉であり、そして夢に向かって挑戦し続けるすべての人にも強いメッセージとして響くだろう。
宮里藍
Ai Miyazato1985年生まれ沖縄県出身。4歳の時に2人の兄(聖志、優作)に触発されゴルフを始める。高校3年の2003年アマチュアで出場したミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンの優勝を期にプロ宣言をして史上初の高校生プロゴルファーに。2010年には年間5勝を挙げ日本人初の世界ランキング1位となる。通算勝利は24勝(国内14勝、海外9勝、アマ1勝)座右の銘は「意志あるところに道はある」。
プロフィール・主な戦歴
渡邉彩香
Ayaka Watanabe1993年 静岡県出身。172cm。両親の影響で9歳からゴルフを始める。2007年静岡県ジュニア選手権で初優勝し、翌2008年日本ジュニア選手権で優勝。高校卒業後の2012年にプロテスト合格。2013年フル参戦初年度からシード権を獲得。2014年プロ初優勝し海外メジャーにも挑戦。2015年は賞金ランキング第6位、日本人最高位となる。東京2020オリンピックで金メダルを目指す。
プロフィール・主な戦歴
松田鈴英
Rei Matsuda1998年生まれ滋賀県出身。父親と姉の影響で10歳からゴルフを始める。高校卒業後、アルバイトをしながらレッスンに励み、プロを目指した。2017年にプロテストをトップ合格。2017年のQTで18位となり、2018年のレギュラーツアー前半戦の出場権を獲得。『ニチレイレディス』4位。1年目で賞金ランキング11位に。
今年は自分にとってかなり大きな挑戦の年(渡邉)
まずはみなさんのこの一年を振り返ってみたいと思います。
渡邉選手には前回のインタビューで、リオ2016オリンピックに出られなかった悔しさやゴルフがオリンピック競技に復活した喜びを語っていただきました。それから1年、心境の変化などはありましたか?
渡邉:今年は自分にとってかなり大きな挑戦の年になりました。前回のインタビューの後に、次の東京2020オリンピックに出場するためにどうしたらいいかって考えたんです。リオ2016出場に向けた選考前のラストマッチでは、出場がほぼ確定している選手に対する二番手争いでした。その中で、人の結果によって出場が決まるというフィールドに自分がいることがいいんだろうか、と思うようになって、今年アメリカのQT*に挑戦したんです。結果的に出場権は得られなかったのですが、大きな挑戦だったなと思っています。
*Qualifying Tournament(クオリファイング トーナメント)の略。プロゴルフツアーでツアー本戦へのシード権を持たないプロゴルファーが、出場権を得るために参加する予選会。
やっと今、やってきていることに手応えを感じている(渡邉)
宮里選手はこの1年の渡邉選手の頑張りを見ていて、どんなふうに感じていましたか?
宮里:常にチャレンジ精神を持って何かに取り組むことはすごく勇気の要ることだと思うので、このタイミングでアメリカのQTを受けたっていうことがすごいなと思いました。
渡邉:リオ2016に行けなかったことが自分の中ですごく大きな転機だったんだと思います。行けなかったからこそ自分の足りない部分や必要なことを考えられるようになりました。結果として裏目に出てしまった部分もありましたが、やっと今自分がやってきたことに手応えを感じられるようになってきて、すごくいい時間だったと思えています。
一昨年くらいからスイングの改造にも取り組んでいると聞いています。
渡邉:スイングの改造はリオの予選が終わった後からですね。もっとこういうショットを打ちたいと今まで以上に感じ、このままじゃいけないなという気持ちが芽生えたんです。自分の中で、"変える"というチャレンジをここ2年くらいやってきました。応援してくださる人がいる中で、自分のやりたいことだけをやっていていいんだろうかという気持ちになることもありましたが、次のオリンピックにつながっていると自分に言い聞かせて、必死にやっていますね。
目標を高みに置くことで自分を磨けることがいっぱいある(宮里)
明確な未来の目標を掲げている今、渡邉選手から宮里さんに聞きたいことはありますか?
渡邉:藍さんもずっと順調だったわけではないと思います。目標が遠くに感じたり迷いがあった時はどう自分を奮い立たせて、目標に向かっていけたのかなっていうことを今、すごく聞きたいです。
宮里:そうですね。もちろん上がったり、下がったりというのはあって、その幅の大きさも人によって全然違うと思います。でも自分の調子によって目標を変える必要はないと思うんですね。目標を高みに置くことで自分を磨けることがいっぱいあるから。自分だけの視点だとどうしても限界があるので、自分を支えてくれるチームと改めてしっかり目標確認をするなど、いろんな人の意見を通して見ることも大事だと思います。そういう細かい作業の先に結果はついてくるんじゃないかな。なぜ今調子を落としているのか、体なのか、メンタルなのか、それともコースマネジメントなのか、ショットの精度なのか、原因はいくらでもあります。それらと向き合って、一つひとつクリアしていけるかどうか。みんな経験上分かってはいると思うので、それぞれのスタイルを確立していくことが大事かなと思います。
渡邉:ありがとうございます!
応援してくれる人たちの支えを借りて頑張りたい(渡邉)
渡邉選手は自分で考えるタイプですか?それとも周りに相談するタイプでしょうか。
渡邉:最近、やっと自分の気持ちを話せるようになりました。調子が悪かったときは、どうしても塞ぎ込むというか、意地になっているようなところがあって。今、藍さんのお話を聞いて、応援してくれるチームの人たちの支えを借りて頑張りたいなと思いました。
松田選手は2017年にプロになり、この1年はルーキーイヤーでした。どんな1年でしたか?
松田:自分が思った以上に結果が良かったので、びっくりしました。
特にシーズン終盤にかけて成績が上がってきましたよね。お話ししているととっても初々しいですが、コース上での堂々とした姿がとても印象的でした。1年戦って、体力的にはどうでしたか?
松田:後半戦に腰を少し痛めてしまいました。また開幕戦から体重が7キロくらい減ってしまったので、後半戦は結構大変でした。今は少しずつ回復中です。
ツアーで1年通して戦うのは、やはりとてもハードなんですね。ただ体力的に苦しい中、成績は終盤上位に食い込んでいきましたよね。このオフは体力作りもひとつのテーマでしょうか?
松田:そうですね。ただ長年やっていくには、このままの体力だと厳しいかなということを感じました。今、体幹と下半身の強化に重きを置いています。
1年戦って、自分の中でこれは成長したとか、納得できるのはどんなところですか?
松田:ショットは良くてパーオン率も高かったんですけど、パターですごく悩んでいて、今年はシーズン開幕3戦目でグリップを変えたら、良い結果がでました。
セオリーはない具体的なアクションを起こしていくことが大事(宮里)
松田選手のようにツアー序盤で変えて、うまく結果につながることもあるんですね。
宮里:セオリーはないと思いますね。ずっと悩み続けてただ時間が過ぎるよりも、具体的なアクションを起こしていくことが大事だと思います。まだ若いですし、そういうことをどんどんやれる時期だと思うので、かみ合ってすごく良かったと思います。
松田選手から先輩の2人に何か聞いてみたいことはありますか。
松田:食事の面について聞きたいです。朝や昼の食事をどうしているかとか、試合中どういうものを食べるといいのかなと。
宮里:彩香ちゃんは結構プロテインを飲んだりしてるよね。
渡邉:そうですね。試合終わったら飲んだりしていました。
宮里:鈴英ちゃんはプロテインとか飲む?
松田:あんまり飲まないのですが、今年の後半戦から少し飲むようになりました。
宮里:プロゴルファーって試合によってはすごく朝早いし、朝5時にがっつり食べろと言われても、入らないことも多いですよね。朝食を摂ることも大事だけど、いっぱい食べるのではなく、こまめに食べる方が鈴英ちゃんには合ってるんじゃないかな。例えば2ホールに1回、ナッツやフルーツを食べるとか、「お腹が空いた」と思ったら遅いので、空く前に。特に、残り3ホールに向けてプランして食べるみたいな感じで。何が食べやすいか鈴英ちゃんがいろんなことを試して、その中でプランするといいと思います。
松田:そうですね、ありがとうございます!この1年休みがなくて、こんなにハードだと思ってなかったので、10年とかプレーしている人は本当にすごいなって思いました。
宮里:10年後もプレーしてると思うよ!ペースをつかめば、ピーキングの持っていき方が分かるようになると思うので、全然心配ないと思います。
松田:ありがとうございます。
頭では理解していたことをすごく、心から実感しています(宮里)
宮里さんは2017年のシーズン後に引退されて約1年、心境の変化はありましたか?
宮里:いろんな変化がありましたね。全く違った形で試合に行くことがすごく新鮮で。特に大会を裏側から見られるということが貴重な経験でした。これだけ多くの人が携わって、一つの大会が成り立っているんだということを、今すごく実感していますね。頭では理解していたんですけど、すごく、心から実感しています。
ゴルフはされていますか?
宮里:全然。引退してから1年ちょっとで5、6回しかラウンドしていないですね。
渡邉:考えられないですね(笑)。
宮里:私も考えられなかったです(笑)。ただ、今ゴルフは心からやりたいと思ったときにだけというスタンスで、少し違うところで刺激を受けたいなっていう気持ちのほうが大きいです。
いろんなところでいろんな知識を積めている(宮里)
違うところで受ける刺激でいうと、どのようなことがありましたか?
宮里:本当にこのチームブリヂストンのイベントで、他の競技の選手と知り合うことが増えました。春に開催された熊本でのイベント*で、バドミントンの藤井瑞希さんと仲良くなって、彼女の引退試合を先日見に行くことができたんです。ゴルフとは全く違う競技なので、見ていてとっても面白かったです。ゴルフは1ラウンド5時間くらいありますけど、バドミントンは30分以内だったりするので、その中での激しい体の使い方などを間近で見ることができてすごく勉強になりました。なので今、すごく面白いですね。いろんなところで、いろんな知識を積めているので、ありがたいです。
*ブリヂストン × オリンピック × パラリンピック a GO GO!in 熊本(詳しくはこちら)
宮里さんは昨年のお誕生日にご結婚もされましたよね。
渡邉:結婚されて、どうですか?
宮里:私の父は、"人として幸せになってほしい"ということをすごく大事にしていました。プロゴルファーとしての成功よりも、人として、家庭を持つ大切さを小さい頃から言われてきたんです。まだ実感はないのですが、誰かと一緒に人生をともに歩めるということはすごく素敵なことなんだなっていうことを、今、心から感じています。アメリカツアーではゴルフと自分という孤独な戦いが続いていた分、今は本当に頼れる存在がいるというだけでも、全然違うし、とてもいいものだと思っています。
オリンピックでメダルを獲ることが、今のゴルフ人生の一番の目標(渡邉)
この先の未来についてもうかがいたいと思います。東京2020オリンピックという近い未来、さらにその先の夢など。
渡邉:私は変わらず、東京2020オリンピックでメダルを獲るということが、自分の今のゴルフ人生の中では一番の目標ですね。今は日本で戦うと決めているので、いろんなチャレンジをして、日本でできる限りの結果を残して、そしてそれが次の自分の目標につながるように頑張ろうと思っています。
渡邉選手もチームブリヂストンとして、受けた刺激や感じたことはありますか?
渡邉:最近だと、パラトライアスロンの谷真海選手が、障害クラスの関係で東京2020パラリンピック出場が危ぶまれていたところ、規定が変わって出場可能性が開けたと聞き、良かったなと思いました。そうやって、チームブリヂストンの選手たちがどんどん東京2020大会に向かって進んでいるのを見て、自分も負けないように頑張りたいという気持ちになりますね。
松田選手は東京2020オリンピックをどのように考えていますか?
松田:日本、そして東京で開催されるので、出たいですよね。今年1年で少し自信がついたので、その気持ちが強くなりました。
賞金女王が目標で、その後はメジャーに挑戦したい(松田)
頼もしい言葉です。1年目の松田選手の場合、2020年以降のプロ人生も非常に長く続くものと思います。5年後、10年後、自身の未来について描いていることはありますか?
松田:まず日本で賞金女王になることが目標で、その後はメジャーに挑戦したいと思っています。
松田選手に宮里さんからアドバイスはありますか?
宮里:パッティングが良くなったことは、プロゴルファーにとってはすごく大きなことで、その感覚は大事にしてほしいです。ただ長く続けていくと、せっかくの自分の成功体験や達成感をおろそかにしてしまうことが増えていくのではないかなと思います。ゴルフの場合特に他の競技に比べて試合数が圧倒的に多いので、自分を見つめ直す時間を十分にとれず、時間に追われてシーズンが終わるということが多いのかなと。なので、一つのショットに対しても、どれだけできたかをちゃんと自分で感じることが、今後長くやっていける秘訣になるんじゃないかな。今、せっかくこれだけ才能のある選手たちが日本にもいっぱいいますし、1年でも多く、長く、いい状態を続けてほしいと思うので、それは心から伝えたいです。
松田:ありがとうございます。
東京2020大会に向けていろんな形で応援していきたい(宮里)
成功体験をおろそかにしないということは、ゴルフに限らずすべての夢に向かって挑戦している人にとって、非常に大切な言葉だなと感じました。宮里さんは近い未来、そしてその先の夢を今、どのように考えていますか。
宮里:東京2020オリンピック・パラリンピックに向けていろんなアスリートをいろんな形で応援していきたいなと思っています。個人的にはまだまだ自分探しが続くとは思うんですけど、その過程さえも楽しみたいなと思っています。今はいろんな人からたくさんの刺激をもらっている状態なので、それが形になればいいなと。そしてここにいる2人も含めて、一生懸命応援したいと思います。
東京2020オリンピックのゴルフの競技についてはどう思っていますか?
宮里:日本のツアーは今すごくレベルが高くて、若い世代の子がどんどん上にいく時代になってきたと思います。ここ10年で流れが変わってきているので、その子たちがずっと生き残れるよう、そして2020年以降も、今の日本の女子ゴルフの人気を少しでも高めていけるよう、微力ながらできることはコツコツとさせていただきたいなと思っています。
山下美穂子
Mihoko Yamashita フリーアナウンサー1977年生まれ東京都出身。慶応義塾大学に入学して美学美術史学を専攻。大学時代は体育会ゴルフ部で女子部の主将を務めた。日本テレビ入社アナウンス部に勤務して、主に報道番組とスポーツを担当。ゴルフ中継で女性初の実況を担当した。2016年末にフリーに転向。現在は、ゴルフなどのスポーツイベントをはじめ、多方面にて活躍中。
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