「強く、優しく、美しく」
私にはまだまだやりたいことがいっぱいある
太田りゆ
2023年アジア自転車競技選手権大会では女子スプリントで2連覇を達成した太田りゆ選手。東京2020オリンピックの出場を逃した苦い経験があったからこそ、さらに強くなった彼女は今、パリ2024オリンピックに向けて、そして一人の女性として強い思いを持って歩んでいる。
東京2020での経験で気づけた"誰かのおかげ"
― 2023年のシーズンを振り返っていかがでしたか?
「満足」っていう言葉を使えるようなシーズンではなかったですけど、6月に行われたアジア選手権(マレーシア・クアラルンプール)のスプリントで2連覇できたことは本当に嬉しかったですね。その後の世界選手権(イギリス・グラスゴー)では形として結果を出すことができませんでしたが(ケイリン11位、スプリント17位)、チームの中では一番いい成績を残せましたし、パリ2024に向けてしっかりとアピールはできたんじゃないかなと思っています。
― 東京2020は出場を逃し、悔しい思いをされました。その時に応援する立場になったからこそ見えたことや感じたことがあったのでは?
そうですね。私はメンバーに選ばれなかったのですが、チームのメンバーがオリンピックで金メダルを獲ることを本気で望んでいました。だから新型コロナウイルスの影響で開催が1年延期になり、長くなってしまった準備期間中も、チームのみんなが強くなるために自分自身ができることを考えて、私はとにかく練習相手になろうって。その経験は自分の成長にもつながったんじゃないかなと思っています。東京2020オリンピック当日は客席でレースを見ていました。
― 客席から見たレースはどうでしたか?
まず、日本代表が出てきた時の歓声は本当にすごかったですね。あと、客席にいることで観客の皆さんの"嬉しい"とか"悲しい"とか"ガッカリ"っていう気持ちが声や空気感ですごく伝わってきたんです。いつもはピット内にいる立場なので、それまでは客席の空気感をリアルに感じたことはなくて、その時に初めて観客の皆さんが選手を応援する気持ちや温度感を肌で感じることができました。
― これまでに想像していたものと違いはありましたか?
正直なところ、それまでは選手として走って負けた私が一番悔しいし、負けた私が一番悲しくて、観客にはそこまで自分の気持ちが伝わっていないって思ってたんです。でも全然そんなことはなくて、観客の皆さんも同じぐらい悲しくて、同じぐらい悔しい。いや、同じぐらいっていうか、選手以上の気持ちがあったかもしれません。それは、私たち選手に対して、想像をはるかに超える"期待"をしてくださっているからなんですよね。その期待が大きければ大きいほど、レースの結果がダメだった時のガッカリ感も大きくて。客席にいることで、これまで感じることがなかった部分に気付くことができて、新しい経験になったと思います。
― 東京2020に出場できなかったことが、また新たな経験を生んだわけですね。
はい、間違いなくそうですね。自分だけじゃなくて周りの人のことをより考えるきっかけになりました。私は誰かのおかげで成り立っているし、周りからの応援のおかげで頑張れているっていうことが理解できるようになったのは、あの経験があったから。"誰かのおかげ"ということをすごく感じるようになった気がします。それからは周りの思いも背負って自転車に乗っていると思うとパワーも湧いてくるんですよね! でも、結果がダメだった時のガッカリ感も想像できてしまうんですけど......。だからこそ、そうなってほしくないって思うので、それもパワーに変えています!
オシャレは自分に自信を持つために大切なこと
― TEAM BRIDGESTONE Cyclingでは唯一の女性。普段の練習で不都合なことはありませんか?
練習自体はナショナルチームでしていて、ブリヂストンのメンバーと練習をするというより、短距離の日本代表と練習をしているので、練習環境としては整っています。だから、これまでに「自分が女性だから」ということで苦労したこということはないですね。でも......「男だからっていうだけで強くてずるい!」っていつも言っています(笑)。「男っていうだけで私の前を走るし、当たり前のように私に勝てるなんてずるい!」って。それを言われた選手たちはいつもモゴモゴしているんですけどね。
― そんな太田りゆ選手ですが......、とってもオシャレですよね!
ありがとうございます!!
― オシャレに目覚めたのはいつからですか?
私がオシャレに興味を持つようになったのは結構早くて、小学校6年生ぐらいから母の化粧品をこっそり使っていました(笑)。最初にハマったのは、目の下にピンクのラメを入れることでしたね。当時からビューラーも使っていましたし、中学生になると目の下にコンシーラーをつけてみたり。クマなんてないのに(笑)。中学校の後半にはカラコン(カラーコンタクトレンズ)もつけていましたし、何かに興味を持ち出して好きになるのは、他の子よりも早かったと思います。
― 練習やトレーニングの時もお化粧はバッチリ?
はい、毎日バッチリです! お化粧やオシャレは自分自身のマインドを上げるためにやっていること。だから、ずっとこのスタンスは続くと思います。これは私自身のためなので、誰も見ていなかったとしてもやっていると思いますよ。
― 「太田りゆ」にとってオシャレとは?
ちょっと変わっていると思われそうですけど、私が一番に興味を持っているのが自分のビジュアルなんです。良くも悪くも人に興味がないので、その分、自分のビジュアルに関しては厳しいと思います。私の場合、自分が綺麗だったり、自分の納得する服を着ていたりすることで、自分自身の自信とかやる気につながっているのかな。スイッチみたいなものですね!
それは人それぞれだと思いますけど、私の場合はオシャレがないと「太田りゆ」として生きていけないかも。
― 自信を持つためやモチベーションアップのためにオシャレ以外にやっていることはありますか?
綺麗な食事をすることですね。私は太りにくい体質なので、暴飲暴食をしても脂肪がダブダブつくことはないんですけど、それでもそういうことを摂生して、アスリートとして正しい食事をするようにしています。「決められた食事を丁寧に毎日こなす私。もちろん練習も毎日ちゃんとやる私。そうやって、当たり前のように毎日"ちゃんとやる"ということを繰り返せる私は絶対大丈夫!」って、そう思えるような生活をしています。
― 毎日、当たり前のことを続けるって意外に難しいことだと思います。時にはサボりたくなったりしませんか?
もし私がサボったとして、周りの人にはバレなかったとしても、私自身はサボったことを知っているんですよね。「あの時、手を抜いてしまったな」「あの時、ちゃんとやらなかったな」っていうのは自分が覚えているもの。だからサボってしまうと、これまでコツコツ積み重ねてきた自信が不安に変わってしまいそうで......。だから私は「やるべきことを全部ちゃんとやった!」「綺麗にしてる!」「今日も可愛い!」そう思える日々を送り続けることで、自分に自信を持つことにつなげているんです。
― そんな毎日を送る中で大切にしてる言葉はありますか?
最近よく思うのは、「優しくありたい」って。強くあるためには優しくしていたらダメって思われるかもしれないけど、私はそうじゃない。強さも優しさも、そして美しさも兼ね備えた人間でありたいと思っています。
「私は強い」
その思いで挑むパリ2024
― 2024年8月には30歳を迎えられます。競技生活、プライベートも含めてどんな30代にしたいですか?
30歳を目前にして、29歳の女性が全員考えるようなことで悩んだりもします。結婚はいつするんだろう、出産はいつするんだろうって......。でも「私にはまだまだやりたいことがいっぱいあるぞ!」と思って、友達と話すことが最近はすごく多くなっています。その中で気づいたのは、「30」という数字だけにこだわっていたけれど、「別に私、いろんなことを焦る必要ないじゃん!」って。目の前の色んなやりたいことをやってから、結婚したければ結婚すればいいって思うようになったんです。
社会の中で生きていく女性として、やり残したことはないように生きたいし、もし子どもを産んだとしても、そこからも私は社会に出ていたいですね。
― 最後に、パリ2024に向けての意気込みをお願いします!
現時点では、まだ代表は確定していませんが、自分の中では「パリには出る!」っていう強い意志を持っています。「私は強い」って信じているので。だから、出る・出ないっていうことを考えるより、オリンピックでしっかり結果を出すためにはもっと力が必要だと思うので、どうやってレベルアップしていくのかを今は考えています。8月のパリ2024では最高な自分で迎えて、メダル争いをしたいと思っています。出るからにはメダルです! 普段のレースの日は、お化粧はしていてもラメはつけないんですけど、オリンピックの日はラメをつけたっていいですよね!(笑)
太田りゆRIYU OHTA
1994年生まれ、埼玉県出身。中学高校と陸上部で800mに打ち込む。陸上で培った体力と持ち前の脚力を活かすべく全く未経験から自転車競技を始める。競輪で活躍する傍ら、日本代表チームで短距離選手として活動中。2018年チームブリヂストンサイクリング加入。
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