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誰かの幸せのために、未来の車いすテニスのために
もっともっと強くなる――

田中 愛美

  • インタビュー
  • 車いすテニス
田中 愛美

普段から笑顔の絶えない車いすテニスの田中愛美選手。どんなことでも思い切り楽しみます。でもその笑顔の裏には、かけがえのない友達の存在がありました。オリンピックイヤーの2024年、さらに進化したプレーを見せてくれること間違いなしです!

初めてのグランドスラムは印象に残るものになりました

― 2023年を振り返って、この1年で印象的だった大会はありますか?

1月の全豪オープンでは女子シングルスでベスト4に入ったのですが、そこまでの道のりが印象に残っています。

― 何があったのですか?

準々決勝の当日、練習コートで朝練習をしていると......腰が「ビギッ!」ってなったんです。たぶんギックリ腰ですね。それから動けなくて、貴重な練習時間をケアに充てました。「出場は厳しいかもしれない......」と思ったりもしましたが、「車いすに乗れるんだったら、できるショットがあるんだったら出よう!」って決めて、テーピングをグルグル巻いた状態で試合に出ました。

― その試合はどうでしたか?

ファーストセットは全然ダメで......。動けないし、何を打っても入らない。でも少しずつ動けるようになってきたので、セカンドセットからは「やれることだけにフォーカスしよう」と切り替えました。そこから、当時は世界ランキング3位だったオランダの選手に逆転勝ちすることができたんです。初めての全豪オープンで、しかもあのコンディションの中でベスト4に入ることができたことが嬉しかったですね。

― 逆境から掴んだ勝利だったのですね! 逆に、悔しかった試合はありますか?

9月に大阪で行われた木下グループジャパンオープン2023です。2023年に初めて開催された大会で、健常者の大会と車いすの大会を同時開催するという、日本では初めての試みでした。順調に勝ち上がって迎えた決勝戦では、たくさんの方が観に来られていました。こんな機会は滅多にないので、「車いすテニスの魅力を伝えたい!」と思いながら試合に挑みました。でも、思いが強くなりすぎたせいかショットの精度が悪くて1-6、2-6で粘ることもできずにストレート負け......。負けたことへの悔しさよりも、いい試合ができなかったことが悔しかったです。
このような大会を開催してくださったことに対しては本当に感謝していますし、もっと同じような大会が増えていくと嬉しいですね。

田中愛美選手

毎日同じことをする。それが「今日も大丈夫!」と思える秘訣

― 世界大会では海外の選手とダブルスを組むことが多いと思います。普段は一緒に練習していない選手とペアを組むことは難しくないのですか?

日本人同士でも普段は一緒に練習をしていないので、その点では海外の選手だからっていうことは気にしていません。大事なのは"相性"ですね。シングルスで強い選手同士が組んだら勝てるかというと実はそうじゃなくて、自分のプレースタイルと合うかどうか、お互いの良さを引き出せるかどうかが大事なんです。
私がよくダブルスを組む海外の選手は2人いるのですが、前衛でボレーをするのが得意な私を生かしてくれています。

― 相性ってとても大事ですね。他にダブルスで意識していることはありますか?

お互いの得意なショットを生かせるプレーを考えて会話をしたり、作戦を立てたりしています。相手の崩し方を考えたりもしますし、「ペアのこのショットで相手のここを狙ったら、次は私が触れるボールが返ってくるはず」っていうようなことを試合中でもいっぱい考えて、ペアと共有しながらやることが多いです。

― シングルスとダブルス、どっちが好きですか?

う~ん、ダブルスかな。シングルスは自分勝手にやれるという面ではいいのですが、ダブルスはコートに4人いる中で、「この試合を自分が一番支配している」と思えるとめちゃくちゃ楽しくなります! 思っていた通りになった時には、ペアにドヤ顔をしたりします(笑)。

― プレーの調子を保つために工夫していることはありますか?

大会期間中は毎日同じものを食べるとか、同じ時間に同じことをするとかですね。昨日は調子が良かったのに、今日は違うことをして調子が悪くなったら嫌だな......っていう気持ちが強くて。言い換えれば、「昨日と同じことをしていれば、今日も大丈夫!」って思えるんです。だから、ホテルの朝食がビュッフェ形式でも同じものしか食べませんし、夕食も「毎日パッタイ!」とか。あっ、もちろん国によって食べるものは変わります。本当は、せっかく海外に来ているんだから色んな美味しいものを食べたいんですけどね(笑)。

― 体のケアのために、普段から気を付けていることはありますか?

体重は気を付けています。少しの変化で動きが違ってきたりするので......。でも、毎日緻密に管理することはストレスになるので、いっぱい食べる日もあれば、ちょっとマイナスの日も作るようにして、1週間という期間の中でバランスを保つようにしています。

― 遠征の時に必ず持って行くものは?

チョコレート菓子と羊羹です。それぞれ試合の合間にエネルギー補給としてよく食べています。ちなみに、羊羹は抹茶味が一番好きです! あとはお湯を注ぐと食べることができる五目ご飯。やっぱり日本の味は気持ちが落ち着きます。

― 勝負メシはありますか?

やっぱり......肉!! さすがに遠征先にまで肉を持って行くことはしませんが、焼肉のたれを持っていて、それに合う肉が置いてあるとめちゃくちゃグッドです。夜に肉を食べてエネルギーを蓄えて体をカッカさせた状態で寝て、次の日のエネルギーにするということが多いです!

― 生まれ変わってもテニスをやっていると思いますか?

思わないですね(苦笑)。やりたいことはいっぱいあるんで! もし一回だけ生まれ変われるとするなら、すごく勉強ができる子になって、素敵な会社に入って、素敵な旦那さんを見つけて......。学生の頃に学校の先生が「なぜ、君たちが今勉強していい大学に入らなければならないのか? それは将来少しでもいい生活をするためだ。そのためにも今は勉強を頑張るんだ、君たちは!」っていうことを1時間くらい使って力説されたのを今でもハッキリ覚えています(笑)。
でも今は時代も変わってきているので、「勉強ができる子」はやめて、やっぱり生まれ変わったら有名なYouTuberとかになります!

田中愛美選手

ドン底の私を救ってくれたのは、かけがえのない友達

― 東京2020パラリンピックを経験してから成長したことや心境の変化はありましたか?

技術面で「これが伸びた!」ということはあまりなくて、メンタル面や試合のやり方は少し変わってきたのかなって思います。
東京2020までは自分を過小評価していて......「どうせ緊張しちゃって、あれもこれもできないだろうから、これだけはちゃんとやろう」って、自分でやることを狭めていたんです。でも、いざ東京2020を迎えた時、思っていたより緊張しなくて。とはいえ、試合には勝てなかったので......。たくさんの人が私の試合を観てくれて、「頑張っている姿が良かったよ」って言ってくださったんですけど、やっぱり試合に勝って「おめでとう!」って言われたいなって。あと、身近な存在の人たちにかけてもらった言葉は、今の自分のモチベーションになっています。

― どういった言葉をかけてもらったのですか?

思い出すと涙が出てくるんですけど......。
東京2020で女子ダブルスは準々決勝で負けてしまって、それ以降は自宅からテレビで見ていました。すると、同じ日本代表だった上地結衣選手と大谷桃子選手が3位決定戦で中国ペアに勝ってメダルを獲ったんです。「本当は私がその場にいるはずだったのに」という思いがだんだん強くなってくると同時に、モヤモヤして夜も眠れなくて......。それで泣きながら友達に電話をしました。
その友達は泣きながら話す私の言葉をゆっくり聞いてくれたあと、こう言ってくれました。
「愛美がすごく頑張っていたことは知っているから、そんなふうに言わなくていいよ」
この言葉のおかげで落ち着くことができました。深夜2時くらいだったのに「本当に辛かったら、今からそっちに行くよ」とまで言ってくれた友達には本当に感謝しています。

― 苦しい時に助けてくれる、傍にいてくれる友達って大切な存在ですね。

はい。私のことを大事に思ってくれる分、私も友達のことを大切にしたいです。私にとっては家族もすごく大きな存在ですけど、家族には「私はちゃんとやっているから」って安心してほしいからこそ弱い部分を見せられないっていうこともあって。でも友達には弱音を吐けたり、ちょっとした愚痴もこぼせたりするので、友達の存在が今の私を支えてくれてるんだろうなって思います。

田中愛美選手

幸せの時間をもっともっと長くできるように勝ち進みたい

― パリ2024パラリンピックの目標や、そこに向けての思いを聞かせてください。

今度こそメダルに絡みたいという思いが一番強いです。あとは、東京2020は無観客だったので、次はたくさんの人に直接見てもらって「田中愛美ってなんかすごいよね!」って思ってもらえるようなプレーをしたいです。車いすテニスも男子が少しずつ"魅せるテニス"をやっていると思うので、女子もそれに負けないように自分が先陣を切ってエンターテイメントとしてのテニスを作っていって盛り上げていきたいと思います!

― 「次こそメダル争い」という目標を達成させるために、残りの期間はどのようにパワーアップさせていきますか?

力強いテニスができるようにと思っています。車いすテニスを始めた頃から私はそこそこ速いボールを打つことができていたんですけど、安定したプレーをするためにもそれをあえて抑えていた部分があって。でもパリ2024では自分がもともと持っているセンスを磨いて、少し速かったり攻撃的なテニスを試合で出せるようにしたいです!

― パリ2024で目標が達成できた時の自分へのご褒美は?

長めのお休みをもらって旅行とかに行きたいな。できれば平日に......。土日はどこも混んでいるので、少しでも空いている平日に色んな観光地に行ってみたいです。ユニバーサルスタジオジャパンにも行きたいですし、おばあちゃんがいる九州にも! 普段は海外に行くことが多いので、国内の飛行機や新幹線を満喫してみたいです。新幹線ではお弁当を食べて......(笑)。

― ある意味、忙しくなりそうですね!

はい! パリ2024が終わった頃に、深夜2時に電話を付き合ってくれた友達の結婚式があるので、それもめちゃくちゃ楽しみにしています。すごく張り切ってドレスを準備して髪の毛もセットしなきゃ! あっ、もちろん新婦さんより派手にならない程度に(笑)。
実は......その友達のお母さんからは東京2020のあとにお手紙をもらいました。そこには「パラリンピックという舞台があって、そこに愛美ちゃんが出てくれたことで家族が一緒になって応援する時間ができた。愛美ちゃんは悔しい結果だったかもしれないけど、私たち家族にとってはとてもいい時間になったから、うちの娘と友達でいてくれて本当にありがとう」っていうような内容が書かれていて、それを読んで本当に嬉しかったことを覚えています。

― 母娘そろって素敵な方ですね!

そうなんですよ! 私が頑張ることによって、色んな人たちから「勇気をもらいました!」って言ってもらえることも嬉しいですけど、家族の時間が作れたとか、ちょっとした誰かの幸せのお手伝いができているのなら、それもすごく嬉しいことだなって。
だから、次のパリ2024の時には、その時間をもっともっと長くできるように勝ち進みたいなって思います!

― 最後に、「是非、私のここを見てください!」というところを教えてください。

パワーだけじゃないところを見せたいし、見てもらいたいですね。自分より大きい相手でもしっかり戦っているところや、諦めずにボールを追いかけるところを見て、最後まで応援してもらいたいなって思います。
あと、チョコレート菓子と羊羹のモグモグタイム、いやらしいショットを決めた時のニヤッとした表情を楽しんでもらえたらいいな!

PROFILE

田中 愛美

田中 愛美MANAMI TANAKA

1996年生まれ、熊本県出身。中学からテニスをはじめるが、高校1年の冬、事故のため車いす生活に。退院後車いすテニスを開始。2016年ブリヂストンスポーツアリーナ入社。同年「車いすテニス世界国別選手権」で日本代表に選出。2021年、東京2020パラリンピックに初出場。2022年より長谷工コーポレーション所属。

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    TEAM BRIDGESTONE 2024 in PARIS

    TEAM BRIDGESTONE 2024 in PARIS

    ブリヂストンは、オリンピックおよびパラリンピックのワールドワイドパートナーとして、パリ2024大会を応援しています。

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