スペインのスタートアップVortex Bladeless Ltd.が開発した、プロペラのないスティック型風力発電機「Vortex Bladeless」。シンプルな形状ながら、6つの特許を持つハイテク発電機です。
2020年後半に200ユーロ程度(約25,000円)での販売を予定しており、現在はプロトタイプを作成中。農地や住宅地での利用を想定しています。
渦の力を利用してエネルギーを生み出す
「Vortex Bladeless」は、風が構造物を迂回する際に発生する渦の力によって振動し、そのエネルギーを電気に変換する仕組みです。
都市部に日常的に吹く風速3mから効果を発揮。風速6m、つまり砂埃が舞い小枝が揺れる程度の風速があれば、十分な電力をつくりだせます。低速~中速の風力で作動するので、プロペラ付きの風力発電機と同等の風量を55%のコストで生成でき、エネルギー効率が良いのが特徴。
風速が30~35mを超え、振動の限界地を超えると自動的に停止する安全装置も搭載しています。
シンプルな形状で低コストを実現 動物や騒音への配慮も
「Vortex Bladeless」は、運用コスト、騒音、鳥類への影響など、従来の風力発電の問題を解決できるように設計されています。シンプルな形状かつ15kgという軽さのため、原材料費も削減。風力発電機中で最も高価な部品であるナセルやブレードも必要とせず、製造コストはこれまでの風力発電機の約53%と概算されます。
また、プロペラがないことから、騒音は20Hz未満とほとんどなく、悪天候の際なにかが引っかかったり、鳥やコウモリが激突して死亡することもありません。
筒内に設置された磁石が反発しあい、可動部品が接触しない構造も大きな特徴です。摩耗や摩擦による損傷がほとんど起きず、メンテナンスコストの低下を実現。同社の計算によると、設備の稼働寿命は32〜96年と言われています。
開発中の3つのモデル
「Vortex Bladeless」は現在、3つのモデルを制作中で、そのうち2つは、すでにプロトタイプが運用されています。
運用中の一つ目は「Vortex Nano」。高さ1メートル、出力3W。小型ながらソーラーパネルと連携し、効率よく電力を生み出します。二つ目は「Vortex Tacoma」。高さ2.75メートル、出力100W。住宅の自家発電や農地で利用を想定したモデルです。
プロトタイプ段階の「Vortex Atlantis / Grand」は、高さ9〜13メートル、出力1kW前後。住宅・農村の自家発電および工場への設置を想定しています。
開発のきっかけになった1本のビデオ
Vortex Bladeless Ltd.は、2012年にデビッド・ヤニェス氏とラウル・マーティン氏によって設立されました。彼らがこの発電機を生み出すきっかけとなったのは1本のビデオでした。
それは、1940年に崩壊したアメリカ・タコマナロー橋の検証ビデオで、風が起こした渦によって橋が共振し崩壊する様子を記録したものです。それを見たヤニェス氏は、渦の力でエネルギーを生成する装置が作れないかと考えました。
ヤニェス氏のアイデアは高く評価され、CDTI(産業技術開発センター)から公的資金を獲得し、同社はマサチューセッツ工科大学およびハーバード大学と共同開発を開始。2015年に6月にはクラウドファンディングで集めた資金で優秀なエンジニアを採用し、プロジェクトを進めました。
太陽光発電ができない地域に、新たなクリーンエネルギーを
近年、地球温暖化対策として、太陽光発電や風力発電などのクリーンエネルギーに対する需要が高まっています。同社はその需要に応えるため、低コストで製造でき、運用が簡単で、設置場所を選ばないデバイス開発に挑戦しています。
広い場所を必要とせず、設置が簡単で、風量や日照時間を気にせず、個人が買える金額であること。そんなクリーンエネルギーデバイスは今までなかったでしょう。同社の挑戦が風力発電市場を一変させる日が来るかもしれません。