キャリアの創り方①"複業"で築く自分の市場価値(後編)

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ブリヂストンで働く人を例に、これからの働き方、キャリアを築くためのヒントを探る新シリーズ。初回は「複業」をテーマにオリパラ室の鳥山聡子さんをご紹介しています。後編では、前編で回答を保留したお給料のこと、そして、仕事のモチベーションや複業による自分自身の変化などについて、お話をお伺いします。

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― 兼業限定、という条件は面白いですね。気になるのはお金の話ですが・・、訊いてもいいですか(笑)
協会からのお給料は、月6万円です。職種にもよると思いますが、「メディアに休み無し」なので、金銭的な面では、PRは割のいい仕事ではないです(笑) 協会側も「お金はそんなに出せないけれど、スポーツに関わりたい、自分の専門性を活かしたい、という人財は必ずいるだろう」という仮説の元に出した求人だそうです。メディアの経験はないけれど、ブランディングの経験、アスリートと仕事をしたことがあり、スポンサー側の経験もあるということで、ぜひ一緒に仕事したいと云ってもらえました。スポンサー側で仕事をしているので、競技団体がこれから獲得したいであろうスポンサー側の事情(求めていることや困りごと)を協会に還元できるのでは、という思いもありました。

― 確かに、時給換算してしまうと、正直あまり魅力的ではないのですが・・(笑) 協会での仕事が本業にもたらすメリットやシナジー効果は期待できそうですね。
「スポーツの競技団体で自分のこれまでの経験を活かしながらPR経験が積める、というメリットに加えて、スポーツやスポーツスポンサーシップに関わる人達とつながることで、双方の仕事に役立つ人脈が築けているのは大きいと思います。複業をやっていることで、メディアさんも面白がってくれたり、こんな人もいるよ、といって面白い人を紹介してくれたりして。そういう意味では、まだまだ女性が少ない世界ということも、プラスに働いていると思います。」

― プレスリリースを書いたり、記者発表のアレンジをしたり、エッセンスはわかっていても、実務面ではチャレンジもあったのでは?
「ブリヂストンでは部署や役割分担が明確で、マネジャーになれば人に振ることもできたりしますが、協会では役割分担も厳密ではないし、誰かに任せようと思ってもノウハウも人もいない、おまけにお金もないから、広報の川上から川下までほぼ自分がやらないといけない。そういう中で無い知恵を絞って(笑)、例えばプレスリリースを書くのなら、世の中やメディアの興味に合わせて、どういう書き方をすれば記事になるのかとか、メディアの媒体研究や記者さんとの会話の中で試行錯誤しながら体得していった感じです。地球の裏側で実施された試合の結果をメディアさんに取り上げてもらうために、徹夜でトーナメントの試合を追い続けて朝イチでリリースを投函、その後普通に出社、なんていうこともありました。でも、それがテレビや新聞で報道された時は、『ああ、ここまでやれば取り上げてもらえるんだなぁ』って思って、疲れというよりも納得感の方が大きかったです。」

― ちなみに、協会での仕事を通して、ご自身が変わったなと思うことはありますか。
「私はどちらかというとプレイヤー型のマネジャーで全部を自分でやろうとしてしまいがちだったのですが、自分がいなくても組織が自走できるように、人に任せることを覚えたのは成長かもしれません。あとは、不完全であることにイライラしなくなってきたかな。以前は出来ていないことばかりに目が向いてしまう完璧主義的なところがありましたが、ある意味できていなくて当たり前のところに飛び込んだことで、できていないことに苛立つよりも、どうやったらできるようになるか?と考えたり、ここはできている!とポジティブな方に目を向けたり、という発想の転換がありました。トライ&エラーを続ける中で、今回はダメだったけど次はどうしようかとか、ラーニングがあったから失敗しても収穫、と考えるようになりました。」

― 失敗、という言葉が出てきましたが、仕事上で悔しい思いや、残念な思いをしたことはありますか。
「スポーツって、勝ち負けのコントロールができない、というか、努力と結果が必ずしも比例しないですよね。
選手も裏方がどれだけ努力していたか、見えない努力を知っているので、結果がストレートにでなかったとき、それによって、周囲に情報が正しく伝わらなかったり、結果にフォーカスしたニュースしかでなくて、現場の努力とか魅力とか、本質的な部分が伝わらなかったり、ということは結構多くて・・。勝つといろんな面にフォーカスを当ててくれるけれど、金と銀では全部違うし、3位と4位でも大きく違う。そういう意味では、そこが遣り甲斐でもある一方で、悔しい思いをすることも多いです。」

― 勝つことが全てではないけれど、勝敗はスポーツにつきものだから、難しいですね。逆に、鳥山さんにとっての仕事のモチベーションというか、やっていてよかったなと思うのはどんな時ですか。
「一緒に仕事をした人が、鳥山がいてよかった・楽しかったと思ってくれること、誰かと一緒に喜べることが、自分の原動力です。
地位や名誉も要らないし、プロジェクトですごい成果が出たとかいうことよりも、終わったときに『みんな頑張っていい仕事ができたね、おつかれ~!』と言い合えることが自分にとっては大事で。何気なく書いたリリースを、それに関わってくれた人がすごい喜んでくれてたとかもうれしいですが、それはやっぱり人に喜んでもらいたいという気持ちが根っこにあるからだと思います。自分のスキルでより困っている人を助けられること。誰かのちょっとした力になれるのなら、やりがいもあるのかなと思いますし、そのためにも自分のスキルを磨き続けなければと思います。」

― 少しキャリアの話に戻りますが、複業の方は、いつまで続けるとか、期限はあるのでしょうか。また、今後、本業や複業でこんな仕事をしてみたい、こんな能力を伸ばしたいなど、考えていることはありますか。
「協会の仕事は一年契約で、今年で3回目の更新になります。オリンピックがどういう形になるか、というところではありますが、それが終わって、選手たちが次も頑張ろうというスタートラインに立つまでは伴走したいと思っています。その意味でも、今年は大事な一年です。いつまでやるか、とかはまだ決めていませんが、やめるまでに自分がいなくても回るPR体制を残したいので、最低限の守りと攻めができる体制を作ること、そのための人財育成や仕組みづくりが今の課題ですね。
スポーツは面白いし、自分にとっての趣味でもあります。日本でキチンとビジネス・エンターテイメントとして成立させていくための過渡期なので、そのフィールドでできる仕事があれば関わりたいと思っています。うちの会社だけでなく、世の中的に役に立つ、通用するビジネスパーソンになりたいと思っていて、それがブランディングやコミュニケーション×スポーツ、という領域でExpertiseが身についているといいかなと思っています。」

― ブリヂストンでこれからキャリアを築いていく後輩たちに、何か伝えたいことはありますか。
「会社の世界が全てだと思ってほしくない、というのはあります。日々忙しくしていて、今やっている仕事に一生懸命になればなるほど、今いる部署とか狭い世界が全てになってしまいがちですよね。自分自身の反省でもあるのですが、そういう時こそ、外に出て、空気を吸おうよと言ってあげたい。世の中はどうなっていて、その中でのブリヂストンという俯瞰した目線を忘れないでほしいからです。もちろん最初っからではなく、ある一定期間は会社の中で一生懸命になる、ということも大事なのですが、会社の中で必要とされるスキルと、世の中で通用するビジネスパーソンとして必要なスキルとは必ずしも同じではないと思います。若くて柔軟性があって、まだまだこれからいろんな伸びしろがある人達は、時に外の空気を吸って、客観的に、今時分が置かれている状況を見るとか、全然違う考えにも触れるといいと思います。100%飲み込めなくてもいいから、そういう視点もあるんだと、違うものを拒絶するのではなく、面白がれるような視点・スタンスを持つことを忘れないでほしいと思います。ブリヂストンが、そんな人財が最大限自分のスキルを発揮できる会社になれるといいですよね。」

― 井の中の蛙、ひいてはゆでガエルにならないために、自分も胸に刻みます。興味深いお話をありがとうございました!

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市場価値のあるビジネスパーソンになる、というクリアな指針を持ち、日々新たなチャレンジを続ける鳥山さん。
副(複)業というのは、単にお金を稼ぐ手段というだけではなく、時間や情熱といった自分のリソースの使い道であり、キャリアを築く手段でもあるのだなぁ、としみじみ考えさせられた筆者です。自分を客観的に見る俯瞰した視点を持つ、というのも、当社社員にかぎらず、今目の前にある仕事に無我夢中になっている人にこそ、届けたいメッセージですね。