キャリアの創り方①"複業"で築く自分の市場価値(前編)

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ブリヂストンではHRX(ヒューマンリソース・トランスフォーメーション)という名の元に、働き方改革を推進しています。
「ジョブ型コンセプト」の導入や「テレワーク」の推進など、人事制度の改正や多様な働き方をサポートする環境整備が進む一方で、中の人の意識改革は進んでいるのでしょうか。これからの働き方、キャリアの築き方を考える上で役立つヒントを得るべく、当社の人事制度を活用して自分らしい働き方をデザインしている人達に取材をしてみることにしました。
初回のキーワードは「複業」。副業を「複業」と読み替えて、制度を自身の成長に繋げているのは、オリンピック・パラリンピック推進部の鳥山聡子さん。彼女の考える複業、キャリアの築き方の極意に迫るべく、前編・後編の2回に分けてご紹介します!

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― 早速ですが、まずは本業である、当社でのお仕事について教えてください。
「本業でのミッションは、オリンピック・パラリンピック(以下オリパラ)の協賛権利を活用した“アクティベーション”の企画と実行、それを通じてブリヂストンのブランド力を向上することです。2015年からこの仕事に取り組んでいますが、この規模でのスポーツ・スポンサーシップは当社にとって初めてのことで、スポンサーシップをアクティベートするとはどういうことか?という定義から作ることになりました。2017年からは契約選手を活用したプロモーションをスタートし、契約の仕方、選手活動の企画・管理など、アスリートの方と仕事をする、という新たなチャレンジがありました。アスリートにはタレントとは違う事情がたくさんあります。例えば、その時々のフィジカル・メンタルの状況を見極めた柔軟な対応が求められますし、パラアスリートの方たちのほとんどは事務所やマネジャーがいないため、見よう見まねでマネジャー業務も習得しました。車椅子のたたみ方とか、タクシーやホテル、会場の手配をするときにどのようなバリアフリーチェックが必要か、とか、小さなことも含めて、経験したことがないことばかりでした。一見華やかに見えるかもしれませんが、とても地道で泥臭い、そして信頼関係が大切な仕事です。」

― 社内で前例がないことを、ゼロから考えて作っていく、オンリーワンの仕事をしている人、というイメージがあります。スポンサーの権利活用って、ロゴやマークを広告でバーンと出してハイ終わり、ではないですものね。どうやったらブランド力の向上につなげられるのか、企画は勿論ですが効果検証も難しいですね。
「ブランディングは直接利益にはつながらないため、定量的な貢献度の証明は難しいのですが、当社がブランディングの目標としている差別性・独自性につながることが証明できるような、わかりやすい事例を作っていくことが重要だと考えています。オリパラでも、最初は選手にBマークを付けてインタビューに出てもらうこと(ブランドロゴの露出)から始めましたが、活動を続ける中で、単なるスポンサー契約ではなく、パートナーシップ契約として一緒に活動していることを、インタビューの場で選手に話してもらえるようになりました。我々の仕事は、それが話しやすい舞台を作ることであり、話したくなるような関係性を作っていくことだと考えています。」

― 副業の方の『公益社団法人 日本フェンシング協会(以下、協会)』でのお仕事についても教えてください。
「協会は、いわゆるNF(競技連盟)と言われる団体で、日本でフェンシングという競技の価値を上げていく、フェンシングという競技を通じて日本のスポーツをはじめとした文化の向上に貢献するための組織です。私の肩書はPRプロデューサーで、戦略的にフェンシングのPR活動を行うための企画や年間のコミュニケーション設計が元々の業務範囲でした。しかし、協会の中にPR選任の人がいなかったので、結局PLANもDOも自分が中心となってやることになりました。大会や公開練習、記者会見の企画設計やアレンジ、メディアさんとのやり取り、当日の運営やリリースの発信、SNS(Facebook, Instagram, Twitterなど)の運営も含め、PR活動の川上から川下までを協会内外の色々な方に協力してもらいながら担当しています。」

― どちらか片方だけでも、めちゃくちゃ忙しそうですが、どうやってタイムマネジメントをしているんでしょうか。。
「副業の方は2019年から始めたのですが、その当時は通勤時間や昼休み、帰宅後を副業に充てていました。出勤途中に選手のアカウントなども含めた協会関連のSNSのパトロールやメールチェックをして、昼休みにメディアからの問い合わせ対応やSNS投稿、帰宅してからリリースを書いて、ニュースなどでの露出チェックをして、会見準備をして、必要に応じてZoomでミーティング、、などという動き方でしたね。本業でサポートしているTeam Bridgestone*の選手が出る試合はなるべく現地で応援するようにしているため、土日もほぼ埋まっていましたし。。副業の方で大会がある時やテレビの取材があるときは、半休を取るなどして、あくまで『本業に支障のない範囲』を逸脱しないように心がけました。我ながら最初の一年はよく頑張ったと思います。なので今は『副業』ではなく『複業』です!と言っています。」

― そんなスケジュールで日々仕事をしていて、よく倒れなかったですね。
『本業に支障のない範囲で』というのは、副業をする上でのキーワードとなる、当社の就業規定ですね。

「言葉の解釈やこのような働き方の受け止め方が人によっていろいろあるだろうと思ったので、最初の一年は、実は複業をしていることを上司にも伏せていました。単なる自分の実力不足で本業での成果が出せなかった場合に、『副業をやっていたから』と思われたくなかったのです。会社には言わずに本業で最低限求められる成果を出して、一年たった時に、複業してたけど大丈夫だよね、といえる状況にしてから言おうと思っていました。」

― 背水の陣というか、・・・自分で自分を追い込んで高めていくのはスゴイですね。
「追い込んでいる自覚はなかったけれど、体力的には追い込んでいたのかもしれません(笑)。言い方は難しいけれど、うちの会社でしか通用しない人にはなりたくなかった。どこに出ても通用するというか、ちゃんと世の中的にみてもこの領域で仕事ができる人・スキルを持っている人になりたかった。そうでないと自分のキャリアがどこかで行き詰まってしまうという思いがありました。
もちろん、この会社にいることでちゃんと予算がついて仕事ができたり、看板に守られていたり、という自覚はあるし、感謝もしています。けれども、世の中のスピード感をちゃんと理解しているか、特にブランドとかコミュニケーションという領域では、世の中の情報の鮮度を理解して、フォローするスピードが落ちた瞬間に使えない人間になるのでは、という危機感があります。」

― 世の中のスピード感。確かに重要ですが、組織が大きくなると難しい場合もありますね。協会でのお仕事は、レイヤーが少ないというメリットもありそうです。
「会長の太田 雄貴さんのリーダーシップによるところも大きいですが、意思決定のスピードが速く、時には太田さんへのLINE1本で諸々の承認やリリースのチェックなども完了します。フェンシングはベンチャースポーツだから、ファーストペンギンになっていろいろな取り組みをして、フェンシングの価値を高めつつ、サステナブルな環境を整えたいと云う太田さんは、ベンチャー企業の経営者のようなところがあって。PRはあまり知らない分野ということで、まるっと任せてトライ&エラーを許容してくれつつも責任は取ってくれるので、チャレンジできる環境でもあります。」

― スピード感があって、仕事の裁量もあって・・、理想的ですね。その辺りが、複業を始めたきっかけともつながっているのでしょうか?鳥山さんはPRのご経験は無いと伺いましたが、協会のお仕事にはなぜPRで応募されたのでしょう?
「PRに所属したことはないですが、今の仕事で選手のメディア対応やイベントの企画・調整をする中で、PRのエッセンスは理解していました。会社の中でPRに異動することはなかなか条件が重ならないと難しいですが、ブランディングの仕事をする中で、PRの仕事ができた方がよりよい仕事ができるだろうと、PRのニーズ・重要性をつくづく感じていました。PRの経験を積む方法を模索している際に、たまたま兼業限定で人財を募集しているフェンシング協会の記事を見つけたのはラッキーでした。フェンシングの経験は勿論、興味も関わったことも無かったのですが、スポーツの競技団体でPRの経験が積める、というのは魅力でした。

― 兼業限定、という条件は面白いですね。気になるのはお金の話ですが・・、訊いてもいいですか(笑)
職種にもよると思いますが、「メディアに休み無し」なので、金銭的な面では、PRは割のいい仕事ではないです(笑)
・・・(後編に続く)

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前編では、本業と複(副)業について、複業を始めたきっかけ、猛烈社員級のタイムマネジメントについてお話を伺いました。
後編では、気になるお給料の話。そして、仕事のモチベーションや副業による変化などをご紹介します。お楽しみに。